元DJが作る「地産地消パン」、その究極の原料 三浦海岸「充麦」は小麦まで自家製!

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店舗からクルマで5分ほどにある小麦畑(撮影:今井康一)

小麦を栽培していると、近所の高齢者たちが「これは小麦だね」「麦踏みはこうやってやるんだよ」などと教えてくれた。農業技術センター職員や県職員が何かと相談にのってくれたこともあり、2006年6月に1反(約990平方メートル)分の畑で300キログラムを無事収穫できたが、保管の仕方がわからない。何とか乾燥させた時点で満足してしまい、ビニール袋に入れて屋外に放置しカビを生やしてしまった。結局、全量廃棄した。

翌年は作付面積を倍に増やし、収穫できた1トン余りを、義父の所有する蔵を借りて貯蔵した。一方で、生活費と乾燥機や製粉機などの購入資金を稼ぐため、近くのホテルの社員になり、厨房スタッフとして働く。時間の融通が利く職場だったこともあり、農作業との両立は問題なかった。

働いていたホテルが「顧客」に

2008年、畑から車で5分ほどの店舗を借りて開業にこぎ着ける。勤め先のホテルに独立を申し出ると、そもそもパン部門を立ち上げる予定で勤めていたこともあり、社長から「うちで使うパンを全部お前のところから買うことにする」と言ってもらえた。年間約700万円のその収入で、親から借りた開業資金も返済できた。

数年間は、店の仕事の合間を縫って農作業ができた。梅雨時の収穫時期は、天気予報とにらめっこして、雨が降る前に車を走らせ、収穫に行った。しかし、店が忙しくなった今は、日常の畑の管理は妻に任せている。畑も4反まで増やし、年間1.5トンを収穫するまでになった。

䕃山氏が自ら栽培した小麦やフスマが使われているバゲット(撮影:今井康一)

近くの乗馬クラブで出た馬糞から堆肥を作り、無農薬で草取りに精を出し、栽培したこだわりの小麦なので、小麦粉の扱いにも自然に気持ちが入る。表皮のフスマも捨てたくないので、全粒粉として使う。季節や天気で粉の水分量が変わるうえ、年によっても小麦粉の質が違う。自家製小麦粉の扱い方は日々、試行錯誤なのだ。

「うちの小麦は、菓子パンなど軟らかい生地にすると、ボソボソしちゃう。『全部うちの粉です』という売り方は可能だけど、おいしくなければ意味がない。北海道や群馬県など国産の小麦粉とブレンドして使うものもあります」と䕃山氏は言う。パンの品質向上には、忌憚(きたん)なく意見を言ってくれる地元顧客の声も役立っている。

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