いただいた中田さんの名刺には「地域おこし協力隊!!」の肩書があった。やはり、地域おこし協力隊員として北海道・木古内町に入り、北海道新幹線開業と同時に「道の駅 みそぎの郷 きこない」の観光コンシェルジュとなった浅見尚資さんを思い出す。
整備新幹線の沿線で、このような仕組みを組み合わせて使いこなせている事例は、どれぐらいあるのだろう。人口減少・高齢社会に向き合うには、「ない物ねだり」よりも、既存の制度やリソースを最大限に活用する「連立方程式」を編み出す知恵と、そこへたどり着く対話の仕組みが、よほど重要ではないか……と、頭に降り積もる雪を振り払いながら考え込んだ。
Wi-Fi使い観光客の流動分析
アクティビティセンターに隣接する観光交流センターで、副所長の大西宏志さんにお話を伺うことができた。最近まで飯山市や周辺の観光とまちづくりにかかわり、本連載でも紹介した木村宏さんのバトンを受け継ぐ1人だ。木村さんは今、北海道大学観光学高等研究センターの特任教授に転じている。
大西さんの出身地や出身大学をめぐって、意外な接点があることを互いに驚きつつ、極めて興味深かったのが、ビッグデータを活用した観光客の流動調査の話題だった。「信越自然郷」の2016年度事業として、Wi-Fiによる観光客の流動のビッグデータ分析が進んでいるのだという。
10月から飯山駅、市内の斑尾高原、野沢温泉村、隣接する長野県山ノ内町の湯田中駅、赤倉温泉の5カ所に機器を設置し、Wi-Fiのスイッチが入っているスマートフォンを対象にして、数値を計測中だ。所有者の国籍や移動状況も分析可能という。さらに、携帯電話会社の統計システムを活用した来訪者調査と、来訪者への日本人・外国人別のアンケートを加えて、3本立てで、観光客の流動と意識を立体的に把握しようと試みている。
「とかく飯山駅の利用者数が話題になることが多いのですが、駅利用者の実態や内訳が、地域にどんな影響を及ぼしているか、あまり議論がなされない」(大西さん)という実態に対応して、今後の対応をより広く精密に検討するためデータを集めている。広域観光の核となっている飯山市として、周辺市町村に対する基礎的な説明資料ともなる。
新幹線開業に際しては、飯山駅に限らず、特定区間や駅利用者の動向だけが注目されることが多かった。これはもちろん、実際に公表されたり、入手可能なデータが少ないためだ。しかし、北陸信越運輸局(新潟市)が実施した、北陸新幹線開業前後でのビッグデータを使った分析が端緒となり、各地に広がり始めている。従来の、極めて断片的な「新幹線利用者数」や「在来線当時との比較」、さらには観光スポットの入込数といった指標に比べれば、X線撮影とMRIの差異に匹敵するほどの「解像度」の差がある。データの公表が待ち遠しい。
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