地元の人が「この時期にしては珍しい」という、重く湿った雪が降りしきる中、駅前で写真を撮り歩く。乗降客の何割かはスノーボードや大きなバッグを抱えた外国人で、彼らが乗り込むタクシーはSUVタイプ。野沢温泉、戸狩温泉、県境を挟んだ新潟県妙高市の赤倉温泉などのスキー場に囲まれ、冬季のアクティビティが観光の柱という、同駅らしい光景だ。
同じ豪雪地帯・青森市や東北地方との差異を身にしみて感じた。東北新幹線・新青森駅前は、産直市「あおもりマルシェ」の誕生の舞台となったが、「何もない」と嘆きや揶揄を誘いつつも、まちを挙げての「見せ方、使い方」の議論は今なお空白のままだ。また東方地方のインバウンド観光客数は、最近増えているとはいえ、国内最少の「真空地帯」と評される水準にある。何より、国内客も含めて、冬季の観光客の落ち込みが、解けない宿題として残り続けている。
「列車の待ち時間」を楽しんでもらう
飯山市は県内の近隣市町村、妙高市とともに「信越9市町村広域観光連携会議」を構成する。同会議は「信越自然郷」の名をブランドに掲げ、また、広域観光事業を推進する「DMO候補法人」として、一般財団法人・信州いいやま観光局を運営している。さらに、飯山市が設置した飯山駅観光交流センター内の施設のうち、「信越自然郷飯山駅観光案内所」と、「信越自然郷アクティビティセンター」については、信州いいやま観光局が指定管理受託者となっている。
雪のない「グリーンシーズン」にはテントやバッグ、カヌーがアクティビティセンターの入り口を飾っていたが、今回の訪問時は真冬とあって、雪上用の「ファットバイク」のレンタサイクルが英語POP付きで並び、白人男性が興味深げに眺めていた。30分500円と手頃な値段だ。しかし、残念ながら筆者には試す時間がなかった。
飯山駅に停車する北陸新幹線は、各駅停車タイプの「はくたか」のみ、しかも上下26本だけで、次の列車まで2時間ほど間が空く時間帯もある。「駅での待ち時間が長くなる分、この自転車を借りて、雪の中で地域を楽しんでくださっているお客さまも少なくないですよ」と、スタッフの中田智子さんが教えてくれた。
停車する列車本数の少なさを嘆くよりも「時間をどう有効に、印象に残る体験に使ってもらえるか」と考え、プランを提示する視点は、ほかの小さな新幹線駅、あるいは長距離の移動を伴う旅にも通底するだろう。駅前の「空白」に向き合う視点も、同様ではないか。
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