ひきこもりの少女は人気アニメ作家になった 「ここさけ」「あの花」の作者が自伝を出版
しかし、その1章ごとにもらう原稿は、ひきこもりだった少女が、母親とふたりきりの長い長い時間を過ごし、やがて「お話」に出合い、そして秩父の自分の部屋を出て、アニメ作家になっていくさまが本当に正直に書かれていた。
そして『あの花』に登場するひきこもりの少年じんたんも、『ここさけ』のヒロイン、トラウマで声が出せなくなってしまった成瀬順も、岡田さん自身の経験が反映されていることがわかってくる。
今、しんどい思いをしている子どもとその親に
中学校時代の岡田さんは学校にずっと行けないでいたけれど、始業式や終業式という行事の際には、1週間前から準備してなんとか行っていた。
〈アニメ『あの花』で、ずっと学校を休んでいた主人公のじんたんが外に出るシーンがある。ドアの前で近所の人の声が聞こえたため、わずかに躊躇するのだが、ヒロインの目もあり外出を決意するのだ。私の場合は、母親の目……正確に言えば、母親の気配だった。リビングから出てこない母親が、耳に全神経を集中。私の動向を探っているのがビシビシ感じられ、追い立てられるように外に出る。〉
ちなみに本では、『あの花』のじんたんの家は、たまたま岡田さんの実家にあげてしまったアニメのスタッフが気に入り、そのまま「じんたん」の家にされてしまったことが明かされるが、掘ごたつのある居間の隣、道に面している部屋が岡田さんの部屋だった。
『ここさけ』では、声が出せない成瀬順が、近所の人が回覧板を回してきても、対応できないので、電気もつけずじっと息を潜めているシーンがある。で、近所の人が順のことをうわさしているのが、部屋にいる順には聞こえている。
〈「人にうわさされる」というのは、私も正直きつかった。私の自室は道路に面していたので、近所の声などは筒抜けだったのだ。「麿里ちゃんが……」というワードがちらとでも聞こえてきたときは、とりあえず布団の中に隠れた。布団に顔を覆われていると音が聞こえないだけでなく、酸素が足りなくなって頭がぼうっとしてきて、ちょっとだけ何も考えられなくなる。〉
本の後半は、岡田さんが秩父の自分の部屋を出て、アニメの脚本家を目指すことになる立志篇だが、成功した後、母親から連絡をもらうシーンが私は好きだ。『ここさけ』の上映が始まった直後のことだ。
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