ひきこもりの少女は人気アニメ作家になった 「ここさけ」「あの花」の作者が自伝を出版

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お母さんだって…。『心が叫びたがってるんだ。』より(イラスト:田中将賀)

〈イベントを終えて、『ここさけ』の全国上映が正式に始まった。

しばらくして、母親から連絡があった。私の作品をろくに観ないはずの母親が、『ここさけ』は劇場まで観に行ってくれたのだという。母親は言った。

「お母さんも昔、麿里ちゃんに似たようなこと言っちゃったね」

似たようなこと、それは順の母親の台詞をさしていた。

『学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします) 

両親の離婚以来、言葉を発せなくなった娘。近所でうわさされる、恥ずかしい存在の娘。そんな彼女に対して、「そんなに私が憎いの?」「もう疲れた」と。〉

映画『心が叫びたがってるんだ。』のタイトルは、岡田さんがつけたタイトルだが、ぎりぎりまで監督に反対された。監督はシンプルに『心が叫びたいんだ。』のほうがよい、と主張した。もともとタイトルにはそこまで思い入れがない岡田さんだが、この時ばかりは、「だったら、まったく違うタイトルにしたい」と反対したという。そこまでして反対した理由に、私は、この本が書かれた意味もあるのかな、と思った。この本は、今、しんどい思いをしている子どもとその親に、長く読まれることになるだろう、と原稿を読みながら確信した瞬間だった。

ただ、ひたすら叫びたいという欲求だけはある

『心が叫びたがってるんだ。』(イラスト:田中将賀)

〈『叫びたいんだ。』にしてしまえば、叫びたい何かがもともと存在することになるから。

順と同年代だった頃の私には、それがなかった。

誰かに、どこかに、叫んでぶつけたいことがある訳じゃない。ただ、ひたすら叫びたいという欲求だけはある。胃の中に沈殿する、もやついた名前のない塊のようなもの。それを吐き出したい。

吐き出すことで、その瞬間に名前がついてくれたならと、どこかで願って。〉

「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」より(イラスト:田中将賀)
下山 進 ノンフィクション作家

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しもやま すすむ / Susumu Shimoyama

アルツハイマー病の研究の歴史について、2000代から興味を持つ。

日・米・欧の主要人物に取材し、研究者、医者、製薬会社そして患者とその家族のドラマを積み上げる形で、2021年『アルツハイマー征服』(KADOKAWA)を上梓。

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA)、『2050年のメディア』(文藝春秋)がある。サンデー毎日に2ページのコラムを連載中。ニューヨークにあるローガンノンフィクションプログラムのAdvisory Board を務める。慶應SFCと上智新聞学科で2018年から「2050年のメディア」の講座を持つ。

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