人工知能が絶対に勝てない人間の「知的暴走」 「適度に狂う機械」の設計はおそらく困難だ

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内田 樹(うちだ たつる)/1950年生まれ。神戸女学院大学名誉教授。思想家、哲学者にして武道家(合気道7段)、そして随筆家。「知的怪物」と本誌スズキ編集長。合気道の道場と寺子屋を兼ねた「凱風館」を神戸で主宰する(写真: 山下亮一)

中村明珍くんは東京で銀杏BOYZというパンクバンドをしていた人です。3.11の後、奥さんに引っ張られるようにして西へ西へと来て、周防大島に落ち着いた。そこで短期の仕事をしているうちに、地元のお坊さんに誘われて修行して、得度して、僧侶になった。今は半農半僧という生活をしています。内田健太郎くんも東京から来た人で、こちらは養蜂をしています。宮田さんだけはもともと農業をやっていた人で、周防大島にやはり引き寄せられて、「身土不二」というポリシーを掲げて、竹炭とか海藻とか、島で取れる天然素材を肥料にして美味しい野菜を作っています。

彼らは日本の里村はどうすれば生き延びられるのか、農業はどうあるべきかについて、実に向日的でアイディアあふれるメッセージを活発に発信しています。彼らの「楽しそう」というところが僕は気に入りました。

メディアはほとんど取り上げませんが、地方移住の流れは今日本中で起きています。グローバル資本主義に見切りをつけて、家族と一緒に自然の中で、生活を手作りしてゆくという選択をした人たちがいる。最初にこのトレンドを教えてくれたのは『里山資本主義』の藻谷浩介さんでしたが、気がついたら僕の周りでも帰農者が続出していた。

グローバル資本主義の「終わり」はもう見えてきた。これからは、成長が止まり、人口が減少し続ける「縮む」プロセスに入ります。

周防大島の青年たちは今一番大切なことが日本の山河を守ってゆくことだと直感して、地方移住を選びました。植生豊かな森があり、清流があり、きれいな海がある限り、日本人はまだ何百年でも生きてゆける。そのような「生き延びられる環境」を次世代に手渡すことを彼らはめざしている。別に指導的な理論があるわけでもないし、リーダーがいるわけでもない自発的な運動ですけれど、日本各地で若者たちが自分の直感に従って動き始めた。今回は3人だけ名前を挙げましたけれど、いま日本の農林水産業を支えてくれているすべての人たちにエールを送りたいです。

――2016年はグーグルが開発した囲碁AIが韓国最強のプロ棋士に勝利したことが話題になりました。2017年春には佐藤天彦名人と国産AI将棋ポナンザとの電王戦が控えています。シンギュラリティ(人工知能が人間知能を凌駕するその特異点の日時)が2045年に来て、そうなると人工知能だけで革新を起こすとも言われています。人工知能が人間を上回るような未来について、どう考えていますか?

そういえばこんな話を思い出した

先日も高校生に「人工知能がこれ以上進化したら、人間は不要になるんでしょうか」とけっこう真剣に訊かれました。今どきの高校生はそういう「ディストピア」を思い描いて不安になっているみたいですね。

でも、超高速で多数の解のうちから最適解を選び出すことはできますが、新しいことを「イノベート」することはAIにはできないだろうと思います。

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