外国人が感じた日本の「道徳教育」のすごみ 知らず知らずのうちに道徳心を学んでいる
米国では、36の州が人格教育を具体的に義務化または促進しているが、導入はなかなか進んでいない。視野の狭いカリキュラムに重点を置いていることなどがその理由だ。しかし、それよりも大きな理由は、公立学校に規律を乱す生徒が多すぎることである。実際、米教員連盟(AFT)の調査によると、教員の17%が生徒による規律を乱す行動のため週に4時間以上の授業時間を失ったと回答し、さらに19%が2~3時間を失ったと回答している。
小学校の教師を務めたことがあるティナ・オーエン氏は、日本の道徳教育制度は称賛すべきとしながらも、米国では導入するのは難しいと話す。「正直、教師の負担を増やすだけ。問題行動があまりにもひどく、読み書きや算数の授業でさえまともにできない」。つまり、道徳教育を行うより前に、「まずは教育に集中したい」というわけだ。
オーエン氏によると、小学校教師の多くは問題行動の記録に追われている。記録といっても、単に態度が悪かった、と書くだけではない。「どう悪かったのか」を詳細に記述しなければいけないのだ。「ジョンは椅子を蹴った。それからスージーを蹴り、私を蹴ると脅した」といった具合に。こんなことに追われている教師に、道徳を教える時間などあるだろうか。
日本の子どもたちを見て感銘を受けた
かつては米国もこうではなかった。オーエン氏によると、彼女の母親が1963年から1987年まで教師として働いていたころ、当時の学校では人格や道徳教育の観点から、礼儀作法の指導は徹底されていたという。トーマス・ジェファーソンやベンジャミン・フランクリンらをはじめとする米国の創設者の多くも、人格教育は米国にとって重要だと考えてきた。しかし、現代の米国の公立校ではこうした教育に重点をおくことが難しくなってきている。
ただし、多くの親はそれでいいとは思っていない。実際、米調査機関ギャラップの調査によると、約90%の米国人が公立学校で「誠実」「平等主義」「寛容」といった価値観を教えるべきだと考えている。
2人の小学生の母であるジョイ・マカリスターさんも、「道徳は幼いころに学ぶのが理想的だ」と話す。実は、マカリスターさんは道徳的教育の観点から、子どもたちを私立に通わせている。子どもたちが通う学校の児童数は89人と小規模。人格教育の授業では、グループでの話し合いや、役割練習などが行われるほか、学校の規則には仲間はずれを禁止するものも含まれているという。また、5年生になると、ホームレス施設を訪問し、なぜホームレスが生まれ、どうしたらこの問題を改善できるのかを学ぶ授業もあるそうだ。