日本にも欧州にも「真の指導者」が欠けている あのウォルフレン氏は今どう感じているのか

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――オランダは長い間、「寛容の国」といわれてきた。17世紀以来、宗教上、そして政治上迫害された人を受け入れてきた歴史がある。その後は旧植民地、トルコ、モロッコから移民を受け入れ、EUからもたくさんの人が入ってきた。移民人口はこれからもますます増えるといわれ、イスラム人口は約6%。西欧ではフランスと並んでイスラム系国民の人口比率が高い。イスラム教を否定するウィルダース氏の言葉は排他的だ。「寛容」は変化しているのか。

確かに、異なる宗教に対して寛容だったし、ユダヤ人、カトリック教徒などを何世紀も前から受け入れてきた。しかし、いつも寛容だったかというと、そうではないと思う。

摩擦が起きないようにするのは政治の責任

――オランダに逃げてきたユダヤ人は最初は差別されながらも、しだいに社会に融合し、地位も高めていった。オランダのイスラム系移民もそのようになっていくのだろうか。

社会の中に少数派が住み、しだいにその存在が大きくなっていくとき、自分たちの独自の習慣が移住してきた国の習慣や価値観にそぐわない場合が出てくる。すると必ず問題が起きる。

少数派が多数派に迫るほど大きくなっていくとき、摩擦や対立が起きないようにする責任が(政治家に)あると思う。オランダの場合、やってきた移民たちに対し、寛大すぎたのだろうとも思う。

――たとえば、2重国籍を認めたり、仕事が終わったら母国に戻るはずの「ゲスト労働者」としてやってきたトルコやモロッコからの移民に対し、慈善団体が中心になって定住に向けての道を支援した、と聞くが。

何でもやってよい、という態度で接してきた。社会の少数派となる移民たちに自分たちの習慣、価値観を維持するよう奨励しすぎたことが後で大きな問題になるだろうことがわからなかった。

しかし、いまや、オランダの第2の都市ロッテルダムにはモロッコ出身のイスラム教徒の市長がいるくらいだ。移民出身の作家によって、オランダの文学もさらにリッチなものになっていると思う。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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