日本にも欧州にも「真の指導者」が欠けている あのウォルフレン氏は今どう感じているのか

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――日本との違いはどこにあるか。

カレル・ヴァン・ウォルフレン氏(同氏のウェブページより)

私には日本と欧州の状況が似ているように思える。どちらにも優れた官僚機構があるが真の政治の指導者がいない。米国との関係が強い点も似ている。日本を本当に理解したければ、日米関係を知ることが必要だった。欧州も、ますますそうなっている。

欧州と日本が似ているところはほかにもある。双方とも言論空間の幅が狭い。言論空間がメディアによって支配され、その大部分が決まり切ったことを言っている。人々が本当に何に心を奪われているかを反映しない、表向きの言論となっている。

日本も欧州もエリート層や寡頭政治による政治の力学があり、こうした人々が非民主的な形で物事を決めている。1990年代、欧州の官僚の間では「民主主義の赤字」という言葉が流行した。日本でも同様だったのだと思う。なぜそうなのかを研究したかった。

欧州には「中身」がない

――なぜEUは行き詰まりを見せているのか。

EUの指導部では明確で現実的な政治思想についての議論が行われていないと私は見ている。これは、まるで日本のようだ。

たとえば、欧州にとって真に必要なことをじっくり考えてきていない。ここ15年ほど、特にそうだ。その理由の一部は、米国との関係があるからだ。欧州は過去15年間、ワシントンの船になったかのようだ。自分たちの独自の外交方針を持つことができない。

日本も米国のために独自の外交方針が持てない。多少の方針のようなものはあるが、実質的なものではない。

このため、欧州は世界に向けた「顔」を持つことができないでいる。「自分はこういう人間だ」と言えない。中身がないのだ。

――独自の顔を作るために、欧州は変わることができるか。

(欧米の軍事同盟である)NATO(北大西洋条約機構)があるかぎり、その可能性はない。NATOは基本的に、米国が欧州を管理下に置くための役割を果たしているからだ。独自の軍事政策がないということは独自の外交政策がないことも意味する。軍事政策と外交政策は互いに重複する。2つを切り離すことは不可能だ。

独自の外交政策がないほかの要因として、大企業の影響力がある。大企業の力が拡大する一方で、これまで市民を民主的な形で代表してきたさまざまな組織、たとえば組合、教会、クラブ、政党などの重要性がどんどん減少していった。

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