原油相場の「下限」はいったいいくらなのか 「米国シェールオイル増産で低迷」は本当か

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IEAのビロル事務局長は、「途上国での消費が高まっているため、石油需要が近いうちにピークを迎えることは見込んでいない」としている。また同事務局長は「短期・中期的に石油製品が他の燃料に置き換えられるとは予想していない」と分析している。また原油安を受けて2年にわたり投資が急減したことから、石油関連企業が新規プロジェクトに着手しなければ、石油供給が滞り、原油相場が大きく変動する可能性があると警告する。

一方で、2017年には米国のシェールオイル生産が日量50万バレル増加し、過去最高の伸びを記録するとの見通しも示す。ただ世界の石油需要は今年日量140万バレルも増加する見通しだ。50万バレル増加したところで、OPECの減産が実施されれば需給は着実に引き締まる。3月の米シェールオイル生産高の増加率は5カ月ぶりの大きさとなる見通しだが、米国内の石油会社が生産量を増やせば、採算が取れなくなるだけである。つまり、現状の原油価格の水準において、米国の石油会社に学習効果があるのかが試されることになる。

1バレル=50ドルは「ボトムライン」

多くの石油会社が1バレル=50ドルでは長期的に生産を継続することができない。こう考えると、50ドルはまさに「ボトムライン」である。今後もし需給調整が進むのなら、50ドル前後で推移している今の水準自体が超割安であることを理解することが肝要だ。

また長期的には、米国のドル安政策も、ドル建てで取引される原油価格を押し上げることになるだろう。現状では、トランプ政権が掲げる政策が金利上昇・ドル高を招くと考えている市場関係者が多い。しかし、財政悪化が鮮明になれば、むしろドル安が誘発される。これは、過去の共和党政権下でも見られた典型的なパターンだ。

トランプ政権が製造業に優しい政策を取り、工場などの設備を米国に戻すのなら、米国内の石油需要は増える可能性があり、在庫調整を促すことが想定される。トランプ大統領は「原油価格は高くないほうがよい。40ドルから50ドルが適正だ」としているようだが、今の米国内の石油会社はそのような価格ではやっていけないことを、いずれ理解するだろう。

またトランプ政権のエネルギー政策では、規制緩和で生産量が増えるとの見方があるが、コストがどの程度下がるのかは不明だ。いずれにしても、安い原油価格は結果的に世界経済にはよくないことが、この数年間で明らかになったことを考慮すれば、市場が再び安い原油を求めるような動きになるとは考えにくい。持続的な石油生産にはある程度の価格水準が必要であり、その水準は少なくとも50ドルではない。この点を十分に理解したうえで、原油市場に対処することが肝要だ。

江守 哲 コモディティ・ストラテジスト

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えもり てつ / Tetsu Emori

1990年慶應義塾大学商学部卒業後、住友商事入社。2000年に三井物産フューチャーズ移籍、「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」としてコモディティ市場分析および投資戦略の立案を行う。2007年にアストマックスのチーフファンドマネージャーに就任。2015年に「エモリキャピタルマネジメント」を設立。会員制オンラインサロン「EMORI CLUB」と共に市場分析や投資戦略情報の発信を行っている。2020年に「エフプロ」の監修者に就任。主な著書に「金を買え 米国株バブル経済の終わりの始まり」(2020年プレジデント社)。

 

 

 

 

 

 

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