冠婚葬祭業に蔓延する「個人請負」の深い闇 従業員約7000人のうち正社員はたった32人

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男性は転換を断ってきたが、同僚から強く請われ、2007年に葬儀のギフト関連の仕事を請け負うようになった。当初は順調だったが、会社から不振地域の担当を追加することを求められ、経営が悪化。昨年、個人破産を余儀なくされた。「独立といっても新しい客先を開拓できるわけではなく、顧客は元の会社だけ。無理難題でも受けざるをえなかった」。

冠婚葬祭業は典型的な労働集約産業。働き手の疲弊は、消費者のデメリットに直結しかねない。

消費者にもシワ寄せ

国民生活センターに寄せられた互助会に関する苦情・相談件数は、10年連続で3000件を超える。解約や葬儀費用をめぐるトラブルが多い。

互助会各社は従来、解約者も応分の負担をしないと、残る会員にその負担がかかるとして、解約時には募集費や管理費、互助会の人件費などを差し引いて返金するという約款を用いてきた。

北関東の大手互助会で葬祭館長を務めていた男性。儲け主義に嫌気が差し同社を離れた(記者撮影)

だがこうした理屈に納得できない会員も少なくない。京都の消費者団体や会員などが業界大手のセレマ(京都府、齋藤武雄社長)に解約手数料の返還を求めた裁判では、手数料について定めた契約条項の大部分を無効とする判決が2015年に最高裁で確定した。

また葬儀費用の「ランクアップ」をめぐっても大阪高裁は2015年、ランクアップを行うには互助会側の適切な説明と消費者の明確な合意が必要との判断を示し、最高裁で確定している。大手互助会と争い主張が認められた京都府在住の男性(61)は、「契約は通夜前のバタバタの中で行われ、遺族は互助会の言いなり。後でおかしいと思っても、お悔やみ事でもめ事などもってのほかと、泣き寝入りしている人がほとんど」と話す。

大手互助会の元社員は、「解約を渋ったり、ランクアップを求めたりするのは、いずれも働き手の不安定な身分ゆえだ」と実情を語る。

互助会に限らず、こうした個人請負として働いている人は国内にどのぐらいいるのか。この分野を正確に把握する公的統計や調査・研究は存在せず、全体像はまだ明らかになっていない。

日本総合研究所の山田久調査部長は、「雇用的自営業」という定義で約161万人(2010年時点)、クラウドソーシング大手ランサーズの調査(2016年)では「自営業系独立オーナー」として約310万人とそれぞれ推計する。

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