離婚後、再び経験のある介護現場に戻った。非常勤で入職した特養老人ホームは1年半働いた。半年前、入浴介助で転倒しそうになった高齢者を支えたとき、左足を骨折して働けなくなった。労災をもらいながら実務者研修に通い、そのとき、同じ生徒だった前職の訪問介護の管理者に入職を誘われた。そして、不正請求を手伝わされた。
「今日いちばん言いたかったのは、介護事業所はもっとちゃんとしてほしいってこと。特別な能力のないシングルマザーが、唯一、社員として働ける可能性がある業種が介護だから」
圧倒的に女性が多い「介護業界」
介護職は女性の比率が70~80%と、圧倒的に女性の職場だ。施設系介護職員の平均賃金は正規職で19万3016円、非正規で13万2221円(日本介護クラフトユニオン2015年3月調べ)と圧倒的に安く、シングルマザーたちのセーフティネットとなる反面、低賃金、違法労働を強いるなど、女性の貧困を牽引する業種となっている。
「私が被害に遭った事業所みたいなところを野放しにしていたら、また同じような境遇の女性が被害に遭う。シングルマザーは本当に大変なの、ほんの少しつまずいただけで生活できなくなる。だから介護現場が普通に働ける場所になってほしいんです」
篠崎さんは最後に強い言葉で、そう言う。介護保険がうまく機能しない介護業界の闇は深い。不正する訪問介護事業所を罰するためには、役所の介護保険担当が監査して、不正の証拠をつかまなければならない。数人がかりで準備、調査、結果を精査するので人員と時間がかかる。さらに不正請求や労働基準法を意図的に違反する事業者はもはや膨大で、キリがないのだ。
3時間くらいしゃべり続けただろうか。窓の外は暗くなり、子どもたちが学童から帰る時間だ。言いたいことを吐き出し、すっきりしたのか何度かお礼を言われた。バス停まで送ってくれて、「私には介護の仕事しかない、今度こそちゃんとした事業所を見つけて頑張る」と、笑顔で言っていた。
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