現在、預金残高は10万円ほど。おカネがなくなったからといって、生活保護制度が使えるかわからない。育ち盛りの子ども2人を抱え、混乱する彼女の表情は青ざめていた。
「その訪問介護は2カ月で辞めました。何もかもが異常でした。雇用契約書を5回も6回も書かされたり、契約書の金額と給与が違ったり、メチャクチャ。あと事業所のパソコンは個人情報があるので、絶対にエロサイトとか見ちゃダメじゃないですか。女の管理者とその内縁の夫で運営していて、男のほうが1日中エロサイト見ている。私が“やめたほうがいい”って何度言ってもダメ。書類も請求もヘルパーも私ひとりでやらされて、とても続けられないと思った」
実態のない勤務表などを作らされた
2000年4月に介護保険制度が始まり、公的機関が担っていた介護が民間に委譲された。特に訪問介護、通所介護の在宅分野の認可基準は極めて低く、介護とはまったく関係ない零細事業者の参入が激増した。素人が高齢者の命を預かる介護事業所を、順調に運営できるケースは少ない。
昨年10月から勤めた訪問介護事業所は、新規参入で立ち上げから数カ月、婚姻関係のない中年カップルが運営していた。介護経験者である篠崎さんに実務を全部押しつける、というマネジメントだった。素人が介護事業所に手を出すと、まず介護保険請求や行政から求められる複雑な書類整備に混乱する。書類に追われて現場の介護がおろそかになる。そして不正請求や虐待、違法労働の温床に、という負の連鎖が起こりがちだ。
「介護だけではなくて、ケアプランの作成から請求まで全部。実際はサービスしていないのに、生活保護受給者にサービスしたという書類を作らされました。あと実態のない勤務表とか。勤務表は常勤7人にしてくれって、知らない人の名前を教えられた。実際に事業所で働いているのはその2人と私の3人だけ、おかしいなって。おそらく訪問介護事業所としての申請から国保連への請求まで、全部不正ってことです。公金詐欺に加担したくないのも、すぐに辞めた理由でした」
書類と請求を担当した彼女の話によると、その訪問介護事業所は人員基準違反に加えて、家族がいない生活保護受給者で不正請求を繰り返したようだ。生活保護の単身世帯は、まずキーパーソンがいない。多くの利用者は、介護事業所が求めればハンコを押す。本人が理解していないので、架空のサービスでも保険請求ができる。介護報酬の50%は国、都道府県、市区町村の税金だ。このように不正する介護事業所に、税金が無限に垂れ流される現実がある。
「辞表を出しても、断固として“辞めさせない”って。脅しみたいに言ってきたのも、常勤の私がいなくなったら誰もいない事業所になるから。それに介護保険だけじゃなくて、雇用系の助成金も不正受給しようとしていたみたいで、私に辞められたらダブルで困る。だから給与払わないって嫌がらせするし、いくら要求しても離職票をもらえない。籍が残ったままなので転職もできない。そんな詐欺のために、自分が利用されて生活がメチャクチャになるとか、本当に耐えられないです」
篠崎さんは崩壊状態の介護事業所に勤めたことでさらに精神状態が悪化し、離職票がないので職探しはできず、給与支払いを拒否されて経済的に追いつめられた。雇用契約書の控えが数枚あった。給与額がすべて異なる。1度だけ支払われた給与は、額面13万3000円。手当はない。東京都の最低賃金割れで、年収換算で159万6000円にしかならない。
「高齢者と介護の仕事は、好き。けど、介護の仕事をしてから、人生がおかしくなりました。負の連鎖がずっと続いています」
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