「教育困難校」問題の解決には何が必要なのか 社会保障費の増大や治安の悪化を防ぐために

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当然、高卒での就職を希望し、まじめに活動した。しかし、おとなしい印象の彼女は、アピール度が低いのか、9月の就職試験解禁以来2回続けて落ちた。3回目に、遅れて求人を出した地元の食品会社を受け、まじめさが評価され、ようやく内定を得ることができた。

現在、就職して3年目の彼女は、時折、自分より年上のパートやアルバイト従業員への対応に苦しみながらも、正社員として同じ会社に勤め続けている。バスを2本乗り継いで通勤し、朝6時勤務開始の早番の日は始発のバスで通っている。

先日は、勤務先から1人選ばれて、漬物製造管理士の試験を受けた。学力には自信のない彼女だが、先輩社員に励まされ受験を決心したという。合格すれば、彼女が人生で初めて得た資格になる。

高校を卒業し、正社員で働くことで彼女の自己肯定観が芽生え、少しずつ大きくなったようだ。最近の彼女は内面も外見も変わってきた。ヘアカラーもするようになり、目下の悩みは眼鏡を手離すために、近眼のレーザー治療をするか、コンタクトにするかということだ。2歳上の姉は高校卒業後半ば引きこもり状態だが、その姉を気遣って外出に誘ったりするようにもなった。

不安定な家族関係や家庭環境に翻弄され、疲れていた彼女にとって、学力競争だけは少なくとも存在せず、似たような境遇の生徒が多い教育困難校での日々は、家庭から離れて「リフレッシュ」する場だったのかもしれない。そして、高校卒業は彼女の復活、つまり「リボーン」のスタートになったといえよう。

大学や専門学校の無償化で解決できる問題ではない

ここに挙げた2人は、決して、社会から熱望されているグローバル人材ではない。しかし、彼らは社会人としての役割を着実に果たし、これからの日本社会の基盤の一端を担っていくだろうことに疑いはない。幸運にも「教育困難校」で先述の5つの「リ」(リセット、リハビリ、リメディアル、リフレッシュ、リボーン)を実現できたからこそ、彼らの今がある。

そして、一方では、「教育困難校」で無為な時間だけを過ごしている生徒が多数存在する。その存在は、将来の社会保障費の増大や治安の悪化を引き起こしかねないものであることも確かだ。

現在の「教育困難校」の生徒を生み出した背景はいくつも考えられる。

子どもの行動や学力に何かしらのつまずきがあっても気づけない、気づいてもそのケアができない学校という制度。家族関係を壊すことがわかっていても、それに従うしかない労働慣習と働く人を追い詰める労働環境。「個性の重視」や「多様性の尊重」と言いながら、実は急ぎ足で、しかも全員同じペースで進むことを強いる社会の風潮などだ。

学力や、その他の能力不足の責任を家庭教育に帰し、それを支える責務を、地方自治体や教育機関に課そうとする表層的な法案で、解決できる問題ではない。また、大学や専門学校を無償化しても、高校在学中に先の5つの「リ」が実現できていなければ、教育の効果は期待できない。

この春も、「教育困難校」に多くの生徒が入学する。

朝比奈 なを 教育ジャーナリスト

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あさひな なを / Nao Asahina

筑波大学大学院教育研究科修了。教育学修士。公立高校の地歴・公民科教諭として約20年間勤務し、教科指導、進路指導、高大接続を研究テーマとする。早期退職後、大学非常勤講師、公立教育センターでの教育相談、高校生・保護者対象の講演等幅広い教育活動に従事。おもな著書に『置き去りにされた高校生たち』(学事出版)、『ルポ教育困難校』『教員という仕事』(ともに朝日新書)などがある。

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