「戸建て向け宅配ボックス」は物流を変えるか 「年間の再配達1.8億時間」に悲鳴上げる現場

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実験では、あわら市の希望住戸103世帯をモニターとして宅配ボックスを設置、生活の中で荷物をどのように受け取ったかについてアンケートを取っている。2016年12月の暫定結果によれば、宅配ボックスの設置前は「再配達で受け取った荷物」が49%に達したのに対し、設置後の12月にはそれが8%まで減った。再配達が8%残った理由としては、12月はお歳暮のピークで1日複数回、配達を受けた世帯があったことや、冷蔵・冷凍品には対応していないことなどが考えられるという。

それでも再配達率が劇的に低下することが示された意義は大きい。最終的な結果の公表はまだ先とのことだが、効果が大きく変わることはないだろう。パナソニックによれば、あわら市以外の公共団体からも実験に参加したいとの問い合わせがあるようで、鋭意検討中とのことだ。

高い価格が普及へのネック

大和ハウス工業の戸建て向け宅配ボックス(写真:大和ハウス工業)

気になる価格については、大和ハウスの宅配ボックスは電気工事が必要となるため工事費込みで25万~30万円になる。ナスタが大和ハウス以外のハウスメーカーやリフォーム会社に提供する同型商品はもう少し安くなるというが、それでも当初は20万円を下らないとみられる。

パナソニックの戸建て向け宅配ボックスは、壁組み込み型で税別17万5000円、ポスト一体型の安いものでも同10万9800円だが、これには工事費が含まれていない。特にポスト一体型は取り付けが簡単でリフォームに最適とのうたい文句だが、工事費を考えると16万~17万円はかかることになる。

「要は価格次第」。日本で最も多く戸建てを建てている飯田グループホールディングスも、「東京に家を持とう」のフレーズで業績を伸ばしているオープンハウスも、そう口をそろえる。現行の値付けでは顧客に勧めるのはなかなか難しいというのだ。両社とも格安住宅を武器にしているだけに、オプションで20万円近い宅配ボックスには手を出しにくいという判断だ。

「マンションに暮らしていた方が戸建てに引っ越されると、宅配ボックスがない不便さを痛感される」(パナソニック水廻り・建材商品営業企画部の奥山博之グループ長)というように、使ったことがある人は必要とするはずだ。社会的問題を解決するにも重要なアイテムとなることは間違いない。

大和ハウスとパナソニックによれば、宅配ボックスが普及するに従って工場稼働率も上がり、いずれ価格は安くできる見通しだという。だが、普及させるにはまず格安住宅に標準装備できるくらいの価格を設定する必要がありそうだ。

筑紫 祐二 東洋経済 記者

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ちくし ゆうじ / Yuji Chikushi

住宅建設、セメント、ノンバンクなどを担当。「そのハラル大丈夫?」(週刊東洋経済eビジネス新書No.92)を執筆。

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