将来推計人口の怪、甘い出生率予測は禁物だ 公的年金に必要な指標の公表が遅れている

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今の法律では、所得代替率(受給開始時の年金額がその時点の現役世代の所得に対してどの程度の割合かを示す)が50%を下回ると、何らかの年金改革に着手することがうたわれている。このことは、本連載記事「年金『世代間の公平』をめぐる与野党の攻防」でも触れた。

所得代替率が50%を下回ったからといって、私たちの老後の生活がひどく困窮するというわけではない。しかし、政権としては50%を下回るような公的年金の見通し(年金の財政検証の結果)が示されれば、現行制度を放置するわけにはいかず、それなりの年金改革に着手しなければならない。こうした年金改革は、皆が得をするという話になるはずはなく、政治的な説得に相当な労力が必要な内容となろう。

もし、政権が抜本的な公的年金改革に政治的な労力を割きたくないと思っているなら、2019年に予定されている年金の次回の財政検証で、メインシナリオにおいて所得代替率が50%を下回らない結果を出して、抜本改革は不要との結論を得たい、と思うかもしれない。

所得代替率が50%を下回らない結果を出す「コツ」は、いたって単純だ。経済成長率を高めに見積もるとか、出生率を高めに見込むとかである。

適切な想定に基づく公的年金の見通しの堅持を

国民は、適切な想定に基づく公的年金の見通しを、政府が示すことを望んでいる。幸いというべきか、2002年以降の人口推計で仮定した出生率は、2002年推計では1.39、2006年推計では1.26、2012年推計では1.34で、メインシナリオ(中位推計)が実態とかなり合っていた。2012年の将来推計人口を踏まえて出された2014年の年金の財政検証は、本連載記事「年金は、本当に『100年安心』なのか」で詳述したように、将来の経済成長率を保守的に見積もった場合には本質的な年金制度改革の必要性が浮き彫りになる検証結果を示した。

将来人口推計の作成を、回を重ねるごとに精緻化していったために、推計作業が複雑になり、マンパワー不足も重なって、まだ公表できないというのが実情のようである。今回の将来人口推計も、適切な想定に基づく公的年金の見通しに資することを願う。 

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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