現に、人口予測のメインシナリオ(中位推計)で仮定した出生率が結果的に高めだったために、予測が外れた過去がある。人口推計上仮定した(大まかにいえば、将来到達する)出生率は、1986年推計では2.0前後、1992年推計では1.80、1997年推計では1.61と、いずれも実績より高いものだった。そして、推計を重ねるごとに、仮定する出生率を下げていった。
これは、公的年金の見通しにも悪影響を及ぼした。
出生率を高く見込むと、将来の若年世代人口がより多くいると見込むことになる。これにより、将来における年金保険料収入もより多くなると見込まれるため、将来において年金給付をより多くできるとか、保険料をあまり引き上げずに済むといった形で公的年金の見通しが出ることになる。これが実態と合っていれば問題はない。
楽観的な人口予測が外れると代償は大きい
しかし、前述のように、5年ごとに人口推計を更新するたびに、仮定する出生率を実態に合わせて下げる結果となった。これに伴い5年ごとに公的年金の見通しを示すたびに、将来の若年人口はより少なくなるとの予測となり、将来における年金保険料収入は前回推計時よりも少なくなると見込まれた。結果的に、将来における年金給付は前回推計より少なくなったり、保険料がより高くなったりするという見通しを、国民に示す羽目になった(もちろん、公的年金の見通しには、人口予測以外の要因も影響するが)。これでは、人口予測など詳しい背景を知らずに、公的年金の見通し結果だけを見た国民が、年を追うごとに公的年金の状況は悪化していると不安を抱いても何ら不思議ではない。
これが経済学者の抱いた既視感だった。公的年金の見通しは人口予測だけで決まるわけではないが、楽観的な人口予測が外れたときの代償は大きい。それは、1997年までの将来人口推計で経験したはずだった。
おまけに、政権が公的年金の抜本的な改革に消極的なら、人口予測を楽観的にしたい誘惑が出てこよう。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら