■第4ステップ 協働作業
患者にとって最適な医療を見つけるため、患者と医療者が対等にお互いに意見を述べ合い、到達した合意の下に進めるコンコーダンス医療をめざします。この医療の実現のために、患者が医療者の知識を凌駕しようなどと言っているのではありません。自分の生き方を反映する医療を実現できるように、自分の考え方を伝えることが大切なのです。
このような医療は、まだまだ実現できているとはいえませんが、実現するためには、そのような理想を目標として両者が持つこと、そして、それをめざしてお互いが歩み寄ることが必要です。
日本高血圧学会のガイドラインではコンコーダンスの概念が紹介され、今後このような考え方は医療者の教育に採り入れられていくことでしょう。その教育により、今後20年間に医療者の意識は大きく変わっていくだろうとわたしは楽観的に考えています。
一方で、患者あるいは市民にとって、このような概念を理解し、身に付けられる場や機会が今のところ十分にはありません。今後、高校や大学などの教育の場で提供されていくことが望ましいと考えます。また、社会人向けにも、健康・医療に関する市民教育が普及することを期待します。
患者が医者を“育てる”ということ
■第5ステップ 育てる・教育する
患者の中には、すでに医療者を積極的に変えよう、育てようと奮闘している人がいます。患者が医療者を教育するなんてとんでもないと思われるかもしれません。しかし、医療が真に患者中心のものへと変わっていくためには、このような患者の存在が不可欠です。人類の共有財産である医療をよりよくするためには、患者や市民による医療者の教育への参加が必要なのです。
患者による医療者に対する教育は、わたしの知る限りは、やはりそれまでに職業として教育にたずさわってきた人が患者になった場合などにみられます。『大学教授がガンになってわかったこと』(幻冬舎新書)の著者山口仲美さんもその1人です。拙著『患者の力』(春秋社)で紹介した重藤啓子さんもその例になります。彼等の医療者との接し方には、相手を変えようという教育者としての発想をみることができます。
2人とも大学の教育者ですが、教育機関に勤務する人でなくても、医療者の教育に参加する人は現代社会には大勢います。一般企業の中でもグループを率いている人は、コーチングの手法などを学び身に付けている人がいます。『治るという前提でがんになった』(幻冬舎)の著者である高山知朗さんなどはそのよい例ではないでしょうか。医療にもコーチングの手法を持ち込めばよいのです。もちろん、工夫は必要だろうし、最初いろいろな抵抗はあることでしょう。
第1から第3のステップでは、相手の医療者や医療機関に左右される度合いが強くなります。第4ステップ以上になると相手を変えることも視野に入ってきますし、相手を選択していくため、患者としての主体性を持つことになり、偶然性に支配されることが少なくなります。
医療とはどういうものか、医療の中における患者と医療者の関係性はどうあるべきかなどの知識が患者や市民にとって必要です。そして、それを提供することが、「市民のための患者学」の目的でもあります。
時代の変化する方向を眺めると、患者・市民と医療者が協働する医療がこれからの時代の医療の中心になります。そして、その移行への準備が医学教育の中に採り入れられつつあります。今後、患者や市民の側に、「患者学」の知識や概念が広まれば、新しい医療への変化も早まるのではないかと期待しています。
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