残業上限60時間を「画餅」にさせないために まだまだ長時間労働、これもゴールではない

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そのような事態を防ぐためには、発想を転換し、多様な働き方があることを大前提として、誰もが無理なく働ける職場環境づくりを進めていくことが不可欠である。

たとえば、出産を機に退職を申し出た女性社員に対し短時間勤務での復職を打診したりとか、親の介護のため退職を申し出た社員にテレワークによる勤務継続を提案したりといったような対応である。

ただ、従来1人で担当していた業務を短時間勤務者2人でシームレスに分担するとか、できるだけオフィスに近い環境でテレワークを行ったりするためには、企業としてはITツールへの投資も必要になってくる。

この点、テレワークを実施するためにITツールを導入したり、就業規則を改定したりした場合に、最大で150万円が受給できる「職場意識改善助成金(テレワークコース)」という助成金もすでにスタートしているので、こういった助成金のさらなる拡充や周知も求めたいところである。

また、テレワークは大手企業では徐々に普及しているので、先行事例のノウハウを蓄積し、日本テレワーク協会などを通じて、中小企業にも水平展開をしていきたいものである。

残業60時間の実現はゴールではない

残業月平均60時間を「絵に描いた餅」にしないためには、単に法律で残業時間の上限を制定するだけでなく、ここまで述べてきたような実効性のある施策を合わせて検討し、展開を図っていかねばならない。

さらには、残業60時間の実現をゴールとするのではなく、これを機に、残業自体をどんどん削減していくべきという社会的コンセンサスを形成していきたいものである。

定量的に考えても、残業60時間というのは、稼働日ベースに換算すると1日約3時間の残業ということになるが、たとえば定時が9時から18時で3時間残業したら会社を出るのは21時である。通勤に1時間かかるなら帰宅は22時。24時に寝て7時に起きて8時前には家を出るとしたら、食事や入浴以外にプライベートな時間はほとんど取れない。平日は子供と触れ合う時間も夫婦で落ち着いて会話をする時間もおぼつかないであろう。独身の若手社員も、21時が退社時刻では、仕事の後に待ち合わせてデートに行くことも物理的な制限がある。

このように見ると、毎日必ず3時間残業をするわけではないにせよ、残業月平均60時間というのは、ワーク・ライフ・バランスの観点からは、まだまだ長時間労働である。労使が一丸となってさらなる残業削減を目指し、働きやすい職場環境をつくっていきたいものである。

榊 裕葵 社会保険労務士、CFP

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さかき ゆうき / Yuki Sakaki

東京都立大学法学部卒業後、上場企業の海外事業室、経営企画室に約8年間勤務。独立後、ポライト社会保険労務士法人を設立し、マネージング・パートナーに就任。会社員時代の経験も生かしながら、経営分析に強い社労士として顧問先の支援や執筆活動に従事している。

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