残業上限60時間を「画餅」にさせないために まだまだ長時間労働、これもゴールではない

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第1は、実労働時間ではなく一定の時間を労働時間とみなされる「裁量労働制」が適用される労働者や、経営者と一体的な立場で出退社や勤務時間に厳格な制限がない「管理監督者」の長時間労働の防止である。

裁量労働制が適用される労働者の労働時間は、たとえば「1日10時間(所定8時間+残業2時間)労働したものとみなす」というような形で労使協定により定められ、実労働時間の長さにかかわらず、つねに1日2時間残業をしたものとして時間外手当が計算される。また、36協定についても「みなされた」時間で届け出れば足りるとされている。そのケースでは、たとえ36協定で60時間以内におさまっていたとしても、実労働時間は60時間をはるかに超えていたという事態が起こりうる。

また、管理監督者については、労働基準法において36協定の対象外であるため「何時間残業をさせても良い」と考えられてしまっている風潮がある。だが、管理監督者も生身の人間であるから、長時間労働が続けば心身を壊すおそれがあるのは、一般の労働者と何ら変わりはない。いわゆる課長や店長などの管理職は管理監督者ではない点にも改めて注意が必要になるだろう。

確かに、裁量労働制で働く労働者や管理監督者は、「時間」ではなく「成果」によって評価される職務に従事する労働者である。だが、それはあくまでも「賃金」についての話であり、裁量労働制や管理監督者であっても、成果を出すために健康を害するほどの長時間労働が正当化されるはずはない。

したがって、「60時間の上限」という考え方は、36協定の上限にとどまらず、立法論としては裁量労働制で働く労働者や管理監督者の「実労働時間」についても適用を拡大することを検討したほうがいいだろう。60時間が労働者の健康を守るためのラインであるというならば、すべての労働者にまんべんなく適用されるような上限の壁とすることが望ましい。

各企業も、残業代の計算が必要ないから裁量労働制で働く労働者や管理監督者の時間管理を行わないということではなく、過重労働を防止し、社員の健康を守るという「安全配慮義務」の観点から、自らが雇用するすべての社員に関していく必要がある。

中小企業の業務効率を積極的に支援する

第2は、企業に対する効率的な働き方を実現するための支援の実施である。

「無い袖は振れない」ではないが、いくら法律で強制的に残業時間の上限を設けても、マンパワーや資金力に限りがある中小企業では、自助努力だけでは残業を削減することは困難であることが懸念される。

昨秋に日本電産が「2020年に残業ゼロを目指す」と宣言したのは記憶に新しいが、その実現のために、最新鋭の自動化設備、新製品を短時間で開発するためのスパコン、間接部門の効率化のためのソフトウエア、テレビ会議システムなど、総額1000億円もの投資をするということであった。これは、業績の安定した大企業だからこそできることであり、中小企業には簡単にまねできない。

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