残業上限60時間を「画餅」にさせないために まだまだ長時間労働、これもゴールではない
別の例を挙げるなら、ここ数年頻発した高速ツアーバスの事故も、旅行会社がバス会社へ、低価格で発注をしていたため、バス会社が余裕のない経営に陥り、運転手に過重労働を強いていたことが事故の原因の1つであった。
あるいは、もう少しスケールの大きい話としては、自動車業界では、完成車メーカーを頂点としたピラミッド構造のため、部品を供給する子会社や関連会社は、完成車メーカーの生産計画に合わせてシフトを組んだり、完成車メーカーの開発計画に合わせて図面や生産設備を準備したりしなければならない。そのため、完成車メーカーのニーズに応えるため、子会社や関連会社が無理をしてしまうという場面も起こりうる。
この点、会計の世界においては、上場企業は投資家保護のため、子会社や持分法適用会社の損益や資産負債を織り込んだ連結ベースでの決算書を公開している。子会社や関連会社に損失や負債を押し付け、親会社の決算だけ美しい姿にして投資家を欺かないようにするためである。
労務管理の世界においても、これと同じ発想に基づき、労働者保護のため、資本関係や取引関係により、一定以上の影響力を持った親会社や親事業者は、子会社・下請事業者の残業時間数などの労働環境を把握し、無理な労働をさせない形で発注や納期設定などを行わなければならないというような規制措置を設けることを検討するのは、決して非現実的な発想ではないのではなかろうか。
多様な働き方の推進
第4は、時短勤務やテレワーク、副業解禁など多様な働き方の一層の推進である。
長時間労働が発生する原因として、人手不足のため、既存の社員が残業でカバーせざるをえないという事態をしばしば耳にする。私も最近、知人から「同僚が辞めてしまって、シフトの穴埋めで半月くらい休みがない」という話を聞いた。また、経営者や人事担当者から女性社員の産休・育休中のカバーに苦労をしているという話を聞くこともしばしばある。
だが、出産や育児に直面した女性に加え、これからは高齢化が進み、働き盛りの年代の男性も、親の介護などで、フルタイムで勤務できない人がどんどん増えてくることが予想される。
そうすると、何らかの制約を抱えた社員を雇用関係から排除するとか、周囲がやむなく残業でカバーするというような消極的な発想では、遅かれ早かれ限界が生じて、フルタイムで働ける一部の社員が長時間労働に陥ってしまうという悪循環が始まる。
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