米国民を洗脳し続ける「コーク兄弟」の真実 私的ネットワークが暗躍する共和党の裏側

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そのために、第1段階では「知識人への投資」をする。第2段階では「シンクタンクに投資」する。最後の段階では、「『特別利益団体』とともに選挙で選ばれる公職者に圧力をかけ、政策を実施させる『市民』集団に助成金を提供する」ことである。

最後の目標は、選挙での共和党の勝利であり、共和党政権の誕生である。草の根運動の組織化は、ある意味では、共和党の戦略でもある。ニクソン大統領は「サイレントマジョリティ」を共和党支持層に組み入れようとしたし、ダイレクトメール方式で政治献金を集め、有権者を組織化したのは、共和党であった。その戦略を、膨大な資金と秘密組織を使って、より効率的に作り替えたのが、コーク兄弟であった。

その戦略を実現するには資金が必要である。そこでコーク兄弟は富豪たちを集め、「コークサミット」を組織する。オバマ政権の発足は富裕層にとって脅威であった。政権が発足して開かれた「コークセミナー」には18人以上の大金持ちが参加した。著者は、名前がわかっている18人の富豪の合計資産だけでも2140億ドルにのぼると書いている。

コーク兄弟に賛同する富豪の中には、メロン財閥の流れをくむリチャード・メロン・スケイフ、実業家でハーバード大学やコロンビア大学などの著名大学に巨額の献金をしたことで知られるジョン・オリンらが名を連ねていた。ちなみに評者が教鞭を取っていたセントルイス・ワシントン大学にはオリン経営大学院が置かれていた。

節税しながらカネで政治を動かす驚きの手口

セミナーは徹底した秘密主義で行われる。そこで集められた資金が、「コクトパス」を通してさまざまな学者や研究所、市民活動へと配分されていくことになる。

その際に利用した手段が、税の優遇が受けられる社会福祉団体への寄付と献金である。こうした献金の情報は、税法上、公開する必要がない。いわば秘密裏に使える資金である。

本書の最初のページに、チャールズ・G・コーク財団や知識と進歩基金、クロード・R・ラム慈善財団が2009年から2013年の間に総額8790万ドルの資金を寄付した対象が図示されている。その中には、保守派の政策センターであるヘリテージ財団、アメリカン・エンタープライズ研究所、ケイトー研究所などが含まれている。

さらに驚くことに、ブラウン大学、ニューヨーク大学、アリゾナ大学などの名門校もリストに載っている。政治活動や選挙への献金では、匿名献金者から集めた4億8570万ドルが、反気候変動活動をする団体「繁栄のためのアメリカ人」や「フリーダム・パートナーズ」などの組織に寄付されている。

「ティーパーティ運動」は草の根運動として知られているが、その活動資金は「繁栄のためのアメリカ人」が出し、理論面ではヘリテージ財団やケイトー研究所が支援している。

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