米国民を洗脳し続ける「コーク兄弟」の真実 私的ネットワークが暗躍する共和党の裏側

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学者やシンクタンクが作り上げた政策(減税、規制緩和、反銃規制、気候変動への反対など)をメディアが取り上げ、それが政治の場で議論されるようになることで、自由市場思想や政策を有権者に訴えた。

さらに選挙では、規制のないスーパーPACに巨額の資金を寄付するほかに、選挙運動員を雇って共和党候補を徹底的に支援した。2016年の議会選挙で、コークネットワークは8億8900万ドルの資金を提供している。コーク兄弟がアメリカを乗っ取ったとさえいわれる状況ができている。

トランプとは微妙な関係のコーク兄弟

ただ、2016年の大統領選挙では、コーク兄弟はトランプ候補に反対し、政治献金をしないだけでなく、自分たちがもつ有権者に関する情報を使うことも拒んだ。本書によれば、トランプも自身のツイッターで、コーク兄弟に支援を受けようとしている他の共和党候補者たちを「操り人形」と揶揄し、コーク兄弟の影響がないことを示して有権者の人気を得たとのことである。

また、最近では、トランプ大統領がイスラム7カ国からの入国を禁止する大統領令を出したことに対して、「大統領令でアメリカの安全は守れない」との声明を出している。コーク兄弟とトランプ大統領の関係がどう変わっていくのか興味深い。

アメリカの政治に隠然たる影響力を持つコクトパスに対して、著者は極めて批判的である。自由市場主義を主張するのはきれいごとで、コークサミットの参加者の多くは、「自ら富を築いた人間もいたが、多くは継承した膨大な遺産を守ることに余念のない」人々であると、イデオロギーとは違うエゴ的な本音があることを指摘する。

また、著者は「コークネットワークの企業は驚くほど多数が、過去か現在に深刻な法律問題を抱え込んでいる」と、規制緩和を主張する裏にある本音を明らかにする。

本文だけで600ページを超える大著である。通常、われわれが知ることのない、アメリカ政治の一面を見事にえぐり出している。アメリカの現実を見ると、大統領は共和党、州知事の数でも共和党が民主党を上回り、多くの州議会でも共和党が多数派を占めている。こうしたアメリカ社会の動きの背後にあるのはコークネットワークである。アメリカ政治を見る視点として、本書は優れた情報を提供している。

中岡 望 ジャーナリスト

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なかおか・のぞむ / Nozomu Nakaoka

国際基督教大学卒。東洋経済新報社編集委員、米ハーバード大学客員研究員、東洋英和女学院大学教授などを歴任。専攻は米国政治思想、マクロ経済学。著書に『アメリカ保守革命』。

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