米国民を洗脳し続ける「コーク兄弟」の真実

私的ネットワークが暗躍する共和党の裏側

本書は、コーク兄弟がどのようにして「コクトパス(Kochtopus)」という目に見えない組織を作りあげ、共和党を乗っ取り、政府に膨大な影響を及ぼし始めたかを徹底的な調査に基づいて明らかにしたものである。「コクトパス」はコーク兄弟の「Kochs」とタコの「octopus」から作られた合成語である。

その組織はおカネで結ばれ、タコの足のようにアメリカ社会の隅々まで緻密な組織を作り上げている。著者は、「コクトパス」を「世間には内緒にしたい、多方面で武装したコークの組み立てたライン」であると書いている。

リベラル派vs.保守主義の思想戦争

本書の著者ジェイン・メイヤーは『ニューヨーカー』の記者で、調査報道で知られている人物である。2008年に出版した『THE Dark Side』では、テロとの戦いがいかにアメリカ民主主義を損なったかを分析し、ベストセラーになった。本書は、それに続く本である。

コーク兄弟が目指す政治を理解するためには、アメリカの政治思想を理解する必要がある。すでに述べたように、コーク兄弟の政治・経済哲学はリバタリアニズムである。極論すれば、アダム・スミス的な自由放任こそが最も好ましいと考える。それは同時に反共主義を意味し、さらに政府が市場を規制すべきだと主張するリベラリズムと対立することになる。

コーク兄弟の父親は反共組織であるジョン・バーチ協会の設立者のひとりである。コーク兄弟は父親が設立した会社を受け継ぎ、非公開の企業としては全米第2位の規模をもつ企業に育て上げた。そこで得た潤沢な資金を使って、大きな政治的影響力を獲得した。

コーク兄弟に影響を与えたのは、フリードリヒ・ハイエクやルートヴィヒ・ミーゼス、あるいはミルトン・フリードマンなどである。リバタリアニズムは、アメリカの保守主義運動の一翼を担う思想である。コーク兄弟は、父親の影響に加え、規制違反で繰り返し訴えられるなかで自由市場主義的な思想を信奉するようになる。

戦後のアメリカの政治は、リベラリズム対保守主義の戦いであった。その戦いは、政府の役割をめぐる戦いでもある。リベラル派は政府が企業活動や市場を規制し、市民生活に積極的にかかわっていくべきだと主張した。保守主義者は逆に、政府は小さくあるべきで、規制も解除し、市民生活に関与すべきではないと主張している。この対立軸はアメリカの政治の中心にある。

戦後のアメリカは、リベラリズムの思想に導かれてきた。戦後、保守主義運動が始まったものの、その影響力は極めて限られていた。保守主義がアメリカの政治の主流となったのは、レーガン政権が誕生してからである。現在では、リベラリズムは退潮し、保守主義の影響力が強くなっている。コーク兄弟が、アメリカ政治の転換で果たした役割は大きい。

本書では、コーク兄弟は3段階で政治を乗っ取ったと指摘する。その基本的な考えは、社会の変化をもたらすには「垂直と水平に統合された戦略が必要」との認識から、「政治活動を起こすように圧力をかける草の根組織への教育を進める戦略」にある。

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