田中さんは、地面に関心を持った理由をこう語る。「いろんな場所で、屋台越しに街を眺めていたら、とにかく1階、グランドレベル(地面の高さ)のことが気になりはじめたんです。開発前の遊休地とか、道路や公園、コインパーキング、オフィスビルやタワーマンションの1階にある広いエントランス……、どれも日本は、何万分の1の図面で考えられたものが作られてしまっているなって。もっと、人間の目線で見える地面に立った風景が大切なのに。そこで、高層ビルから遠くを眺めるのではない本当の地面の使い方、あらゆるグランドレベル、1階の作り方を提案したいと思ったんです」(同)
「税金対策で、すぐにパーキングになっちゃう」
そんな田中さんに、今の都市はどう見えるのか。
「地面には、ほんとは土があるのに、アスファルトを敷くと固定資産税が下がるっていう変な法律があるから、古い家が取り壊されると、税金対策ですぐにコインパーキングになってしまう。なんだか寂しい感じですよね。エリアの風景にもコミュニティにも、悪い影響しかありません。
でも、選択肢がほかにないんです。泥的なものと、無菌的なものの二極化が都市のあらゆるところで起こっている気がする。私は地面を無菌にするんじゃなくて、もっと地面を使ってわくわくしたいし、わくわくする人が増えてほしい。土地を相続したとき、面倒くさいものを引き継いじゃったなぁって思うんじゃなくて、こんな面白いものが使えるなんてと、もらって喜ぶ人が増えてほしい。
だったらコインパーキングになんかしないで、私設の公園にするのはどうでしょう。たとえば三浦さんの土地なら「三浦公園」って名前にして、そこで屋台のようなものを開いて、固定資産税分くらい場所代を稼げるシステムを作れる可能性はあるだろうと」(同)
田中さんは現在、「パーソナル屋台」の楽しさを伝えるワークショップを、大学やまちづくり機関、美術館などで、市民向けに開催し、これまでに500人以上が参加した。そこでは、毎回思いもつかないアイデアが次々と生まれるのだそうだ。
「『どの場所で、あなたなら何を、振る舞いますか?』がいつものテーマです。まず、対象エリアのフィールドワークを行い、そこで自分なら、何がしたいかを考えてもらいます。そのときに、社会の役に立つことではなく、自分がやりたいことを考えるのもポイントです。
ある若い女性は、靖国通りの街路樹の間に、小さな自転車屋台を出して、街ゆく人たちに、お花を無料で振る舞うことを行いました。足を止めてくれた方に色を選んでもらったら、少しお話ししながら、花を包んでいきます。気づいたら、通りが花を手に持つ人であふれていて感動しました。そのほかにも、街角で、子供のために遊具屋台をつくった学生や、インド好きが高じてチャイを振る舞う女性などもいました」(同)
こういう動きは、他の地域にもあるのだろうか?
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