なおシムズ教授の提言とは、先のFTPLに基づき、中央銀行を含めたいわゆる統合政府が明示的に債務を拡大させることで、成長率とインフレ率の押し上げを図る政策である。FTPLそのものの妥当性に関しては、筆者は懐疑的だが、シムズ教授の提言は財政拡張を含めた広義のヘリマネ政策と同様に位置づけることができる。労働市場にスラック(余剰)が残っているため賃金上昇率が伸びず、かつデフレ期待が根強い日本経済にとって、より効果が大きいマクロ安定化政策が発動されることを意味する。
安倍政権は、2013年のアベノミクス発動によって日銀の指導体制を変えることを通じて金融緩和強化を実現した。日銀の政策はいわゆる「異次元緩和」といわれているが、インフレ目標実現のための大規模資産購入政策はFRB(米連邦準備制度理事会)が先に始めており、黒田東彦日銀総裁率いる日銀は遅ればせながら導入したと筆者は評価している。黒田総裁など執行部も、基本的な経済理論に従い、試行錯誤しながら必要な政策を粛々と実行しているという認識ではないか。
そして、先の日銀執行部の体制を変えた政策決断の背景には、従来の国内の当局者や経済学者らの誤診が、過去20年の長期デフレの背景にあったと、安倍首相らが認識していることがあると推察される。だから、米国などの一流の経済学者の提言を幅広く受け入れることは、結果に責任を持つ政治家としてごく自然な行動であるように思える。
経済政策の転換でリスク資産は大きく上昇へ
安倍首相が2014年の消費増税が失敗だったと認識しているとみられることは、これまでたびたびメディアで報じられている。なので、2019年に想定されている消費増税についても、増税の妥当性やそのリスクについて、臨機応変かつ経済情勢を重視する姿勢で判断されるだろう。
大物経済学者であるシムズ教授の提言は、安倍政権の政策判断の柔軟性を高めることにつながるといえる。インフレ率2%の目標実現のために、財政政策を拡大させる必要があり、必然的に、2014年のように増税で緊縮的な財政政策に転じる際には相当慎重に判断するということである。
ところで、最初に「日本の某メディアが、シムズ教授による日本の経済政策についての発言を取り上げなかった」と書いたが、実は別の記事ではシムズ教授のインタビューがあり、その中で、日本のアベノミクスについても触れられている部分がある。
だが、主眼はあくまでシムズ教授の理論について置かれており、アベノミクスについては、核心部分は触れていない。その理由は不明である。紙面の制約やほかの記事と重複した部分を割愛したなどの事情があったかもしれない。ただ、投資家視点でみるとこのメディアの報じ方は極めて興味深い。消費増税の失敗を経て財政政策を転換させている安倍政権に対して、批判的な勢力の声があり、それが経済メディアの報じ方に影響を及ぼしているように思われるためである。
「アベノミクス相場」そして「トランプ相場」は、経済政策の転換によって、リスク資産の大きな価格上昇をもたらすと筆者は位置づけている。そして、そうした政策そのものの妥当性に懐疑的な見方がなお多いことは、これらの政策転換にベットする投資戦略のアップサイドがなお残っていることを示しているといえるだろう。
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