ノーベル経済学者の発言を「歪める」マスコミ 経済ニュースの裏側から投資戦略を考える

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しかも、1月末にはノーベル経済学賞を受賞した大物クリストファー・シムズ教授が来日した。同氏が安倍首相らと面談する機会はなかったが、浜田宏一・内閣官房参与がシムズ教授の講演に影響を受けた経緯があり、同氏の発言をわれわれ投資家は注目していた。ターナー氏と同様に、財政政策による成長率を高める政策をシムズ教授が語れば、それが間接的ではあっても安倍政権の政策判断に影響を及ぼす可能性がある。

シムズ教授は都内でいくつかの講演を行ったが、筆者はそれらに直接参加する機会を得られなかった。そのため、メディアが伝える報道でそれを把握しようと試みたが、そこで非常に興味深い報道に遭遇した。

シムズ教授はしっかり「日本への処方箋」を話していた

まず、筆者が愛読している某メディアは、2月1日のシムズ教授の発言について「トランプ氏の財政拡大策『人気取り、財源欠く』 シムズ米大教授が警鐘」などと報じた。

記事では、シムズ教授が、トランプ大統領の経済政策について批判的に述べた部分のみが紹介された。ただ筆者はこの記事に違和感を覚えた。というのも、来日しているシムズ教授が、安倍政権の経済政策についても何らかの見解を述べているはずだが、この記事でまったく紹介されていなかったためだ。「物価水準の財政理論」(FTPL)を前提に、財政政策の在り方を論じている大御所経済学者が、脱デフレの途上にある日本の政策について、日本の講演会で言及しないことが極めて不自然に感じられた。

そこで、別の経済メディアの記事を探すと、「日本に必要なのは財政拡大、基礎的収支の目標年限撤廃を」との某通信社の記事をみつけた。同記事でシムズ教授は、「短期的な景気対策としての財政拡大は次の増税で穴埋めされると人々が感じて支出が抑制されているほか、高齢化による将来不安も重なっている」「日本で物価上昇に向けた効果を高めるためには、消費増税を先送りすることが望ましい」などと述べていた。

2%インフレ目標が実現するまで消費増税を先送りすべき、とのノーベル経済学賞を受賞した大物経済学者の提言である。なお、この講演を実際に聞いた筆者が信頼している知人は、この記事が伝えるようにシムズ教授が発言したと教えてくれた。

同じノーベル経済学賞受賞者である、クルーグマン教授、スティグリッツ教授が2016年に来日し、増税に慎重な意見を安倍首相に直接訴えたことが、2017年の消費増税先送り、その後の財政政策転換に影響した。そうした意味で、シムズ教授の提言も、安倍政権の政策運営に一定の影響力を及ぼすと思われる。

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