街づくりは「武蔵小杉化」だけが正解ではない

「スペック」で測れない街の魅力があるはずだ

島原:三浦さんの作った属性を見てみると、「男性のうちアニメをよく見ると回答した人が住みたい街」とか、「中古持ち家に転居したい人が住みたい街」など、これは都市のランキングをしているだけではなくて、要するに価値観分析ですよね。

三浦展(みうら あつし)/社会デザイン研究者 カルチャースタディーズ研究所主宰。1958年生まれ。1982年に一橋大学社会学部卒。パルコに入社し、マーケティング誌『アクロス』編集室。1990年に三菱総合研究所入社。1999年に「カルチャースタディーズ研究所」を設立。消費社会、家族、若者、階層、都市などの研究を踏まえ、新しい時代を予測し、社会デザインを提案している。 著書は、80万部のベストセラー『下流社会』のほか、『毎日同じ服を着るのがおしゃれな時代』『あなたにいちばん似合う街』など多数。東洋経済オンラインで連載中(撮影:今井康一)

三浦:ええ、マーケティングですよ。自動車やチョコレートなら毎日やっていることですが、それを今まで、街でやってなかったんだね。街のマーケティングといえば、たとえば駅前にファッションビルを出店するときのマーケティングであったり、人がいっぱい歩いているところをGIS(地理情報システム)で調べて、チェーン飲食店を出すというような、出店戦略のためのものしかなくて。いろんな街が、どんなポジショニングされているかという、マップ的な調査って実はなかったなと。

島原:「官能」という概念も、マーケティングで使われる概念で、たとえば製品開発の段階では、必ず官能検査というものがあります。のどごしがいいとか、しみこむ感じがあるとか、非常に感覚的な評価をテスターがやっています。感性というのがすごく重視されている。

建築の分野でも、建材にはこれがあるみたいですね。肌触りだとか。ただ、建った建物とか、ましてや街の官能検査というものは、まるでされてない。すべて工学的な問題で片づけられてしまいます。

品川駅のコンコースには、エロスがない

三浦:マーケティングなしに物をつくると、スペックで評価することになるよね。だから、たとえば安くて壊れない車だけど、どうも官能的ではないということがある。ビルも、耐震性、耐火性といった性能重視でつくられるから、住んで便利な街だけど、どこか官能的ではない。むしろ、古くて雑多な暗黒街のほうが官能的というパラドックスを生んでしまう。

島原:スペック重視ということで言うと、三浦さんは以前ご著書(※『新東京風景論』)で、品川の港南口に向かうコンコースに、エロスがないという書き方をされていましたね。「官能都市」という発想も、そこから得た部分があるんですが。

あそこは、おそらく面積当たり、人をどれだけ流すかという観点で見ると、最高に効率がいいでしょうね。

三浦:排水かな(笑)。

島原:排水か土砂。ほんとにドーッと、朝はこっちからで、夕方はあっちから、人が大量に流れてくる。そういうふうな計画って、まさに道路の考え方だと思うんですけれども。交通の効率みたいな。それってやっぱり、20世紀の最初の工業的な発想だと思うんですよね。

島原万丈+HOME'S総研『本当に住んで幸せな街―全国「官能都市」ランキング―』(光文社新書)。上の画像をクリックすると、アマゾンのサイトにリンクします

三浦:まさに、建築家のル・コルビュジエが、まっすぐな道が人間の道、曲がった道はロバの道と言ったようにね。彼は、感覚的には、ロバの道のほうが官能的ということを書いているんだけど。やっぱり近代建築のスローガンとして、まっすぐな広い道をアピールしているんです。それをいちばん真に受けたのがアメリカと日本(笑)。だから、こういう都市になってしまったんでしょうね。

島原:武蔵小杉的な街は、20年、30年経ったときにどうなっていくのでしょうね。武蔵小杉の場合は、立地がいいですから、活発に物件が売りに出される、貸しに出されるということが起こるのならば、人口の新陳代謝があるのでいいのですけれども。

ただ、もしも終の住処として、武蔵小杉やみなとみらい、湾岸豊洲のタワーマンションなんかを買っているとすれば、住民は一斉に高齢化していきますから、相当まずい状態になっていく。今の郊外のニュータウンみたいなものが、縦に積み上がったものになる。

こうした街が、将来も中古流通として人気の街であり続けるかどうかというのは、極めて慎重に考えないといけないんじゃないかと思いますね。

(後編につづく)

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