「敷居が高い」という便利な表現の深い真意 外国語では訳せず、理解も難しい

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この「敷居が高い」という言葉ですが、普段どこか高級なレストランやブティック、お寺、神社、教会などの畏(おそ)れ多いと思われがちな場所へ誘われたとき、断る文句の一つとして使用している方が多いのではないでしょうか。謙虚な姿勢も感じとられ、なかなか「NO」と言えない日本人にとっては、誘った相手を傷つけない断り方として、便利な表現だと思います。これを文字通りに英語にすると「Having a high threshold.(敷居)」となり、意訳を英語にすると「That’s too good for me.」(それは私にはよすぎる)などになると思います。

しかし、実はこれは間違った「敷居が高い」という言葉の解釈と使い方だと知っている方はどれくらいおられるでしょうか。

本来の「敷居が高い」の意味

本来、「敷居が高い」とは、「相手に不義理・不面目なことなどがあって、その人の家や場所に行きにくい」ことを意味します。恩義などに対してお返しができていない場合や、何か申し訳ないことをしてしまい心苦しくて、相手の家などに行きにくいということ、ありませんか。そのような時に使う言葉が、本来の「敷居が高い」の使い方なのです。

英語には「Having a high threshold.」という表現があり、これが日本語の「敷居が高い」という表現の英訳として充てられています。この英語としての「敷居が高い」という言葉は、「高級すぎたり、上品すぎたりして、入りにくい」という意味の解釈で問題ありません。

しかし、この英語表現には日本語の「敷居が高い」の本来の意味は含まれていません。はっきり言えば、同じ「敷居が高い」という言葉でも、日本語と英語とでは意味は異なるということです。本来の日本語の意味を踏まえるならば、「敷居が高い」は英語では「I feel so guilty for that.」(それに対して何だか悪いと思ってしまう)と表現できます。英語としての「敷居が高い」の意訳である「That’s too good for me.」とはまったく意味が異なるのは明確です。

表面的には同じ言葉でも、その言葉の意味が日本語と英語では異なる面白さがここにあります。しかし、この言葉の意味を深く考えると、また別の面白さに気がつきます。それは、英語(且つ、現代の多くの日本人が使っている場合)の意味は、自分と対象物などを「表面的」に比較し自分を卑下する姿勢が見受けられ、その一方、日本語(本来の「敷居が高い」)の意味は、自分と対象物を「深層的」に比較し、自身を正直に問う姿勢が見受けられます。

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