ゴルフ界で激変した「契約プロ選手」の意義 ナイキやブリヂストンは何を狙っているのか
さらに、ナイキが契約するゴルフ選手の中でいちばんのビッグネームであるタイガー・ウッズも契約を変えた。キャップをはじめとするアパレルはナイキのままだが、1月にボールはブリヂストンスポーツ、そしてクラブはテーラーメイドとの契約を発表した。3社にまたがるというのは、今までにない契約である。スーパースターのタイガーだからこそできる契約かもしれないが、前例がないことが起きたのは、ゴルフ用品メーカーとプロとの関係が変化したからという面もある。
ゴルフ用品メーカーがプロと契約する目的は、いくつかある。プロの評価能力を生かし製品の開発力を高めることや、企業イメージの向上など。しかし、やはりいちばんシンプルな主目的は、プロ本人が使用している商品が売れることである。なにしろ、トップ選手の使用しているクラブ、ボールはつねに話題になる。
かつては「プロが使っているから」という理由で、クラブがよく売れた。懐かしく感じる人も多いだろうが、今年1月で70歳になったジャンボ尾崎こと尾崎将司が20年以上前に使っていた「J’s(ジェーズ)」もその例だ。国内で100勝以上の勝利を重ねて、圧倒的に強かった尾崎将司が手にしていたジェーズのゴルフ用品は毎年100億円以上の売り上げがあったといわれている。
広告が販売に直結しない時代
だが、近年はすっかり環境が変化した。話題にはなっても、契約プロが使っていることが販売実績にすぐには結び付かなくなっている。なぜかというと、メーカーと契約したプロがその製品を使うことは、スポーツビジネスが成熟した時代に生きる現在の消費者からすると、当たり前のことになっているからだ。また、ギアの中でもいちばん高額なクラブは、各メーカーが個々のアマチュアプレーヤーの体格や筋力などに細かく対応していく販売策を推し進めている影響も大きい。
だから、プロが契約して製品を使うだけでは、インパクトが弱い。そこに何か消費者をあっと驚かせたり、強烈に惹き付けるストーリーがないと、購買にはなかなかつながらない。かつては、契約したメーカーのテレビCMなどが購買活動を引き起こすのに十分なストーリーを作り出していたが、いまやその役割をSNSが果たすようになっている。メーカーが発する情報より、フェイスブック、ツイッターなどでファン同士がやり取りする評判やうわさ話がより直接的に購買意欲を刺激するようになった。費用を投じて広告・宣伝を打つことが必ずしも販売実績に直結しない時代が訪れている。
プロゴルファーも、特にギアに関しては自分の成績に直接の影響があるので、本当に自分に合ったものを選ぶ傾向が強くなった。以前に比べて、契約メーカーへの「義理」で使うケースが減っている。
結局のところ、プロの評価を決めるのはゴルフの成績。義理立てした結果、成績が落ち込んでしまっては選手にもメーカーにもメリットがないという認識がお互いに根付いたからだ。タイガーも自分自身に合ったギアを選び、その結果、ボールとクラブで別のメーカーになった。
しかし、ボールの使用でタイガーと契約した前後の売り上げ推移をブリヂストンスポーツに確認してみて驚かされた。米国では契約後、全米の主要販売チェーン5社のボール週間販売数が1.7倍になったという。契約金は明らかにされていないが、その販促効果は絶大だったようで、さすがはスーパースターのウッズだと感じた。だが、ボールは単価が低くすぐに試せるために、購買につながる現象が起こっているのだろう。ずっと高価なクラブの場合、同じようにはいかないはずだ。
はたして、ゴルフ用品メーカーがプロとの契約が必要でなくなる時代はやってくるのであろうか。今年1月に、昨年の日本女子オープンを17歳で制した畑岡奈紗はダンロップスポーツと用品用具の使用契約を結んだ。ダンロップスポーツの木滑和生社長はその際に、いみじくも「プロとの契約で物は売れない。しかしそれは必要なのである」と述べた。
どういう意味なのだろうか。販売実績に直結するわけではないが、ブランド価値を上げるためには、プロが使うことが必要だ。私はそのように受け取った。投じた費用に対する効果はすぐには出てこない。が、漢方薬のようにじわりと効いてくることは間違いないと思う。
今は選手との契約をテコにして一朝一夕で成功するのは難しく、継続的な努力や投資が必要になる時代だ。ゴルフ用品メーカーにとって、ある意味では牧歌的な販売戦略が可能だった時代はすっかり過去のものになった。成熟が進むスポーツビジネスの中で、企業の知恵と体力を以前よりも問われるようになっているのだ。
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