「長時間労働」叩きだけでは、何も解決しない 「正社員」の概念を、根本から考え直すべきだ

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また、個人単位の生産性アップのほかに最も重要なのは、組織単位の生産性を上げることです。組織単位の生産性を上げるにはどうすればいいか。もちろん多くの方法があるところですが、どの組織にも共通して言えることは、「ミスマッチ人材をなくすこと」です。

これまで、日本の労働法では解雇が厳しく規制されており、能力・経験不足のミスマッチ人材に対しても、丁寧に注意指導をし、改善を求め、それでも改まらなければ警告書を発したり、配置転換により適性を見るなどの丁寧な指導を行う必要がありました。

しかし、そのような時間はもうないのです。ミスマッチ人材が1人いた場合、その人を注意指導する人、その人のミスをカバーする人など、組織単位の生産性ダウンは2倍・3倍にもなります。生産性向上の議論においては、ミスマッチ人材とどのように向き合うかという議論が必要不可欠なのです。

働き方のグランドデザインを再設計する

そもそも今回の政府が検討している同一労働同一賃金も長時間労働規制も、欧州連合(EU)の例を参考にしているといわれます。しかし、EUの労働法においては、同一労働同一賃金と長時間労働規制のみならず、解雇については金銭解決を認める制度が一般的です。労働法体系は労働時間や非正規労働の問題が独立して存在するのではなく、正社員に対する解雇規制なども一体となってひとつの労働法体系を作り上げているため、その一部分だけをまねしたのでは、極めてアンバランスな結果となります。

このまま解雇の金銭解決を議論せず、長時間労働規制と同一労働同一賃金の導入を進める場合、日本の労働法はEUの厳しいところだけを抜き出した「世界一厳しい労働法」になってしまいます。こうした中、厚生労働省の有識者検討会は1月30日、裁判で不当とされた解雇を職場復帰ではなく金銭で救済する「金銭解決制度」の導入に向けた本格的な議論を始めました。この議論が上辺だけではなく、「働き方改革」の根幹をなすものとして真摯に議論されることを期待したいと思います。

今、求められていることは「働き方改革」であるとするならば、一部の表面的な議論だけではなく、正社員はどうあるべきかという、働き方のグランドデザインを再設計する必要があるのです。昭和の時代の終身雇用、年功序列はもう通用しません。とするならば法律もまた変わるべきであり、現在の「働き方」に合わせた労働法のあり方が問われていると考えます。

倉重 公太朗 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士

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くらしげ こうたろう / Kotaro Kurashige

慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。著作は20冊を超えるが、代表作は『企業労働法実務入門』(日本リーダーズ協会 編集代表)、『なぜ景気が回復しても給料は上がらないのか(労働調査会 著者代表)。

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