トランプ就任演説は「超絶暗い世界観」の塊だ 民主主義という言葉は1度も出てこず

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重要な利害関係者に「メッセージ」を送る

「トランプはケネディの主張をさらに強力に推し進めて、世界に対してより大きなビジョンを示すとともに、それに加わっていくには、より重い責任や費用を共有していくことが求められることを述べるのではないか」と言及した。

このポイントについては、先に述べたように、残念ながらトランプは具体的なビジョンを提示することはなかった。海外へのメッセージとしては、これからは米国第1主義であり、各国も自国の利益を優先するべきであり、米国はその成果を出すことで模範となるという趣旨のことを述べている。

重要な利害関係者という意味では、トランプは今回、「アメリカの殺伐」や「忘れさられてきた人たち」という表現を使い、選挙戦からのコア支持層を主な対象とする言及が多かった。一方、反対票を投じた国民に直接的に訴えるような言及はほとんどなかった。

勝利演説の際に語った、「すべての米国人の大統領になる」(”President for All Americans”)という明快な表現は皆無だった。就任演説の構成としても、この明快さを打ち出すことができなかったことが、トランプの苦境を感じさせるものになったような気がしたのは、筆者だけではあるまい。

 「アメリカの殺伐」と表現されたオバマは?

自らが重要視する「価値観」を明確にする

この点については、「強さ、本音、正直、変化といった価値観は、シェアードバリューとして多用されるキーワードになるだろう」と述べた。実際にこれらの言葉は、キーワードとして多用されたが、ここで注目したいのは、1月10日に行われたオバマ前大統領の退任演説との比較である。

オバマは、そこで民主主義という言葉を20回も使い、その重要性を強調。さらにはトランプを意識して民主主義の継続性に懸念を表明した。一方、トランプの就任演説では民主主義という言葉は一度も使われなかった。また米国が伝統的な価値観として重視してきた人権の尊重などの価値観も演説では登場しなかった。

自らの2期8年を「アメリカの殺伐」と表現され、民主主義の強調も「無視」された格好になったオバマはどのような思いでトランプの演説を聞いていたのだろう。演説直後にトランプはオバマと(握手を交わすのではなく)お互いの肩をたたき合ったが、その際にオバマの表情がこわばっているように筆者には見えた。

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