「怪しい調査書」とは結局のところ、何なのか

元スパイが作成したリポートが政争の具に

たとえば、トランプ氏はリッツ・カールトン・ホテルのかつてオバマ大統領夫妻が宿泊した部屋を選んだ。この中で、複数の売春婦にベッドの上で尿をかけあう、通称「ゴールデンシャワー」を行わせたという。

このホテルはFSBの支配下にあり、部屋の中の動きをすべて記録できるよう、マイクや隠しカメラが配置されていた。

第2項では外国の政府や大企業に対し、FSBが音頭を取ってサイバー攻撃をしていること、第3項では民主党内部の電子メールなどの情報を内部告発サイト「ウィキリークス」が暴露した件について、クリントン民主党候補を「嫌う」トランプ選挙陣営とクレムリン側の協力があったことなどが記されている。

衝撃的なのは、トランプ氏のホテルの部屋の中の行為が極秘に記録されていたばかりか、ロシア政府とトランプ陣営が「通じていた」ことだろう。「脅しをかける」ほどの弱みを握られていては、米政治の先行きにも影を落とす可能性がある(もし事実であれば、だが)。

ロシア広報官「安っぽい小説のレベル」

プーチン大統領直々の指示の下、駐米のロシア外交官らを通じて両者は連絡を続けていた。その際、トランプ側で連絡係となっていたのが、トランプ氏の元外交アドバイザーのカーター・ページ氏だという。

昨年7月、ページ氏はモスクワでプーチン大統領の側近の1人でロシア国営石油最大手ロスネフチのイーゴリ・セーチンCEOと会う。トランプ氏が大統領に就任した際には対ロシアの制裁(2014年から、ロシアによるクリミア併合をめぐり、経済制裁を発動)を解消する可能性について話したという。ページ氏は、疑惑は「ゴミだ」と全面否定している。

米政府側は昨年からこの情報を入手していたが、大統領選への影響を考慮して情報を精査中であることを公言していなかったとみられる。

ロシア側は、どう評しているのか。プーチン大統領のドミトリー・ペスコフ広報官は「安っぽい小説のレベル」と評し、事実ではないと述べている。一方、米CIAのロシア部門の元統括者で今は退職したスティーブン・ホール氏は「ロシア人が本当にこんなことしているのか。もちろんだ」と答えている(1月11日付フィナンシャル・タイムズ紙)。

英国の探偵業界は厳しい判断を下す。まず、ロシア最大の民間銀行「アルファ銀行」のつづりが全体を通じて間違っているという(正しい表記はAlfaだが、これがAlphaになっていた)。また、状況証拠がほとんどで具体的な事実が入っていないことも難点だ。「ホテルでの工作に『その場にいた』という人物が3人もいる。あれほどの衝撃度の高い作戦に現場にいた情報源を1人でも見つけられる確率は100万分の1だろう。それが今回は、3人もいるなんて」(ロシア関係の情報収集を専門とする、ある私立探偵談、18日付ロンドン・イブニング・スタンダード紙)。

物理的証拠がまったくないのもおかしい、と別の探偵が言う。「トランプ氏の弁護士がロシア政府の代表とプラハで会っていたと報告書は書いているが、弁護士は後にパスポートを公開し、一度もプラハに行ったことはないと述べている。裏を取れ、と言いたい」。

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