「トランプ占い」は「吉」と出るか「凶」と出るか 新大統領の放言に惑わされない米国の見方

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とはいえ、中長期で成果が出るのは「ミクロよりもマクロ」の方である。高い経済成長を目指すのならば、やはり財政政策や規制緩和に力を入れるべきだろう。問題はどこで政策運営を切り替えていくかである。

「NEC」 VS 「NTC」=「コーン」 VS 「ナヴァロ」に注目

 おそらく就任演説という「トランプ占い」後も、経済政策の方向性ははっきりしないだろう。つくづくトランプ氏の一言一句に振り回されるのは不毛というもの。そこでわれわれはどうすべきか。言葉ではなく、人事に注目してはどうだろう。具体的に言うと、NEC(国家経済会議)とNTC(国家通商会議)という2つの組織のことである。

 ホワイトハウスには、NSC(国家安全保障会議)と呼ばれる大統領直轄の組織があり、国務省や国防総省との間を調整して外交・安全保障政策を動かしている。NSCの担当補佐官は、ヘンリー・キッシンジャー氏(ニクソン政権)からスーザン・ライス氏(オバマ第2期政権)まで、重要な役割を果たしてきたことはよく知られている。

 この組織を模して、1993年にクリントン政権で誕生した経済版の司令塔がNECである。初代議長となったロバート・ルービン元ゴールドマンサックス共同会長は、財政から通商、為替まで見事に経済政策を仕切ってみせた。ところが2期目のクリントン政権でルービン氏が財務長官に転出すると、あら不思議、NECは一気に霞んでしまった。個人の力量が組織に優先するのは、政治の世界では珍しいことではない。

 さて、お立ち合い。このたびトランプ政権は、第3の大統領直轄組織として通商問題を扱うNTCという会議を新設し、ピーター・ナヴァロ教授(カリフォルニア大学アーバイン校)を議長に任命すると言っている。となると、NTCの下に商務省やUSTR(米通商代表部)といった部局が集結して、通商戦略を練ることになるだろう。ナヴァロ教授は対中強硬派として知られているから、NTCはチャイナ・バッシングの司令塔となるのかもしれない。

こうしてみると、「NECがマクロ政策、NTCがミクロ政策」というデマケーション(区分け)ができそうだ。とはいえ、経済政策の司令塔が二重になるわけだから、お役所同士の縄張り争いが生じることは想像に難くない。そこから先は、人間同士の勝負となる。新任のNEC議長は、ゴールドマンサックス社の現役社長兼COOであるゲイリー・コーン氏だ。少し先走った見方をすると、コーンvs.ナヴァロの戦いにご注目ということになる。

ところで新財務長官に指名されたスティーブン・ムニューチン氏も、元ゴールドマンサックスの投資家である。ホワイトハウスの首席ストラテジストに選ばれたスティーブ・バノン氏も、かつて同社に在籍した時期がある。トランプ次期政権の経済政策を占うのであれば、トランプ氏の一言一句に振り回されるよりも、「ゴールドマン・マフィア」の動きに注目する方が良いかもしれない。

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