「非正規の職員・従業員」の割合は2005年時点では30.3%だったが、2010年時点では34.4%となり、2016年7~9月期では37.6%まで拡大した。賃金水準が低い非正規社員が増えることで、全体の平均賃金が低下しているという構図だ。これが、日本の家計全体の所得が増えない要因のひとつになっている。
正規・非正規を合わせた時間当たり賃金の変化を「正規社員の賃金要因」「非正規社員の賃金要因」「非正規社員の割合要因」に分解してみる。すると、非正規社員の割合が増加したことにより、正規社員の賃金と非正規社員の賃金がそれぞれ増加した影響のかなりの部分を相殺してしまっていることが分かる。
同一労働同一賃金で全体の賃金水準は下落も
ただやみくもに正規・非正規社員の格差を縮めればいいのだろうか。経済学の理論を考えると、政府があまり介入しないほうがよいという見方が優勢だろう。この問題は最低賃金の導入や引き上げの問題に非常によく似ている。ベーシックな経済学の議論では、最低賃金の導入によって一部の労働者の賃金が増える一方で低賃金労働者の失業につながってしまうとされる。企業にとってそれが最適な行動になるからだ。
同一労働同一賃金の議論も同様であり、非正規社員の賃金水準を上げようとすれば失業が増える可能性がある。より起こりそうなこととしては、非正規社員の賃金が上がるが、その分だけ正規社員の賃金が下がるという傾向だろう。これはこれで意味のあることかもしれないが、全体の賃金水準を引き上げる結果にはならない。
さらに、同一労働同一賃金を進める過程で全体の賃金水準を下げるような「調整」が企業側によって加えられる可能性もある。企業が合併するときによくあることだが、賃金制度が変更される場合に企業側は全体のコストを下げるように調整するインセンティブがある。同一労働同一賃金を強く進めることが必ずしもプラスとは限らない。
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