テレビと芸能界のもはや隠しきれないタブー 松本人志とフジテレビの勇気ある「告発」

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もう一度、テレビ業界と芸能界の現状を整理しておきましょう。

2017年1月の時点では、松本人志さんと小倉智昭さんらタレント個人が、「核心に迫る勇気あるコメントをした」という段階に過ぎません。振り返れば、デーブ・スペクターさんも昨年SMAPの騒動時に、「いちばんパイプがあるはずのテレビが独自取材しないことに違和感を覚える」とコメントしていましたが、議論に発展することなく終わりました。

今後も、タレントたちが勇気を出して声をあげるとともに、番組の制作スタッフや、ひいてはテレビ局全体で、それに応えられるかがポイントになります。今のところ、フジテレビだけがこの危機に取り組む姿勢を見せていますが、単独では限界があるのも事実。たとえば、フジテレビだけが『週刊文春』のような「親しき仲にもスキャンダル」という姿勢を貫いたら、他局よりもキャスティングで不利になるなど番組制作に支障が出てしまうため、なかなか踏ん切りがつかないのです。

やはり民放各局が足並みをそろえてテレビ業界の適正化をはかるしかないでしょう。目先の、しかも自局の利益ばかり見ていると、目の前に迫っている危機を見過ごし、近い将来の大きな損失につながりかねません。民放各局はネットへの対応を迫られ、2015年10月に見逃し配信ポータル『TVer』を立ち上げましたが、多様化するエンタメとデバイスの中で存在感を維持していくためには、そのとき以上に足並みをそろえる必要があるのです。

年を追うごとに民放各局の情報番組が増え、現在は「早朝の5時台から夕方の18時台まで情報番組が続く」状態になりました。これまでのような「このスキャンダルは扱うけど、これは大手芸能事務所絡みだからやめよう」という悪しき商習慣が浮き彫りになりやすいタイムテーブルにしたのはテレビ局であり、みずから逃れられない状況に追い込んだとも言えます。

私の知っているテレビマンにも、大手芸能事務所の意向を汲みながらの番組作りに、忸怩(じくじ)たる思いを抱き続けてきた人たちがいます。昨年大きな芸能ニュースが重なったことで、彼らの頭に「仕方がないじゃん」ではなく、「このままでいいのか?」という疑問が生まれてきたのは朗報と言えるでしょう。

ドラマやバラエティも実力優先へ

テレビ局にとって芸能事務所との関係適正化は、超えるべきハードルこそありますが、少なくともスポンサーとの関係性より繊細ではないことは明白。今回の出来事は、まだ小さな動きに過ぎないものの、期待感あふれる第一歩であることに疑いの余地はありません。

芸能ニュースの自主規制が解けるだけでなく、ドラマやバラエティのキャスティングに、「芸能事務所の大小ではなく実力優先」の姿勢が貫かれれば、テレビの信頼回復にもつながるでしょう。その姿勢は当然ながら番組の品質向上に直結しますし、「やっぱりテレビはスゴイ」という期待感を取り戻せる可能性を秘めているのです。

芸能事務所との関係適正化が、今年なのか、数年後なのかは分かりませんが、生き残りのために必ずやこの流れは訪れるでしょう。

木村 隆志 コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者

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きむら たかし / Takashi Kimura

テレビ、ドラマ、タレントを専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、1万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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