「同一労働同一賃金」、本当の狙いは何なのか 実は非正規処遇の改善のさらにその先にある

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ちなみに欧州では、職種や地域ごとに使用者団体と労働組合が締結する労使協約によって賃金表が決められ、企業ごとにすべての「職務」が賃金等級に格付けされる。さらに労使協約は非組合員にも適用される仕組み。結果として、正規も非正規も同じ基準で、仕事に応じて賃金が決められるシステムになっており、同一労働同一賃金が成り立つ状況にある。

もっとも、欧州の現実をみる限り、必ずしも職務内容の同一性を問うことはない。合理的な説明がつかない格差は認めないという、不利益取り扱い禁止原則によって、柔軟な運営がされている。たとえば、勤続年数や学歴、職業資格による賃金格差は認められている。政府もそうした欧州の実態を参考に検証し、冒頭で触れたガイドライン案を示した。

内容をより具体的に追ってみよう。政府のガイドライン案では、いかなる待遇差が不合理か不合理でないか、具体例が示されている。一定の条件下では、非正規に対する「賞与」支払いや通勤手当・食事手当など「諸手当」の同一支給の必要性を示しており、一定程度、非正規の処遇改善が期待できるものだ。

これは裏を返せば、企業の人件費負担増を意味する。非正規処遇改善のための原資を、正社員の賃金の引き下げで捻出する動きが出てくる、といった懸念の声もある。だが、正社員の賃金引き下げは、不利益変更法理によって容易にできるものではない。

基本給は同一でも、処遇差は是認?

今回の案は欧州と日本の労働慣行の違いを勘案し、どちらかといえば保守的な形の提示になっている。総じてみれば、正社員処遇への影響は、限られたものにとどまるだろう。賃金の大半を占める「基本給」については、能力に応じた同一支給の必要性を指摘しているものの、キャリアコースの違いやペナルティーを伴う負担の違いによって”処遇差を設けることは問題にならない”としており、大枠では現状是認のスタンスといえるからだ。

これでは非正規処遇改善の効果は十分とはいえない。あくまで今回を出発点と位置づけ、今後、一段の取り組みが必要といえよう。ただ、杓子定規に進めていくと、職務分離によって正規・非正規間で過度に仕事の区分が行われ、かえって非正規の低賃金を固定化させる恐れもある。よって、産業別や職種別に検討会を立ち上げ、より具体的なケースについて継続して議論を行い、可能な限り格差をなくしていくという方向で、労使が対話を重ねていかなければならない。

加えて重要なのは、これまで多くが不明瞭だった、非正規の評価や昇給の仕組みについて、正社員の制度と整合性をとりながら整備していくことだ。非正規の現状の賃金を引き上げるという静態的な視点だけでは不十分。非正規が正社員に転換できるルートを整備するなど、キャリア開発面での格差是正という動態的な視点も必要である。

もっとも、同一労働同一賃金のより深い意義は、実は非正規処遇の改善のさらにその先にある。なぜなら、現行の雇用システム自体の見直しが不可避な状況下、同一労働同一賃金こそ、再構築すべき雇用システムにおける、公平処遇の原理に位置づけられるべき原理だから。つまりその意義はむしろ、”正社員のあり方の見直し”につなげることにあるのだ。

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