「同一労働同一賃金」、本当の狙いは何なのか 実は非正規処遇の改善のさらにその先にある

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日本が本格的な人口減少局面に突入する中、人手不足を補うために女性やシニアの活躍を促進するとともに、生活水準の維持・向上に必要な労働生産性の引き上げに向けて、低生産性産業から高生産性産業への人材移動を促すことは不可欠になる。それには、正社員の雇用維持を最優先し、非正規にとって十分なキャリア形成機会を得られず賃金も伸びない、現行の雇用システムのあり方を見直す必要がある。そのための方向性として、欧州型、とりわけ北欧型の雇用システムのエッセンスを導入することが有効である。

欧州の正社員は、職種を決めて企業に雇われるのが基本で、日本よりも転職や再就職をしやすい。キャリア形成は企業任せでなく、自ら主体的に行い、やりたい仕事や生活とのバランスを考えて、企業を移ることも例外ではない。ここで重要なのは、欧州においては、政府および労使が協力して実践的な職業能力資格を整備し、企業のニーズを十分に組み入れた高等職業教育制度が設けられていることである。

特に北欧では、労使が国家レベルで合意して非営利の支援組織を設け、企業をまたぐ形で労働移動をきめ細かくサポートする仕組みが整備されている。比較的活発に労働移動が行われ、正社員の欠員が生じて非正規を正規化できる余地が生まれ、非正規のキャリア形成にもつながっている。また欧州全体では、実践的で企業横断的な職業能力認定制度が整備され、非正規であっても能力形成の機会を得やすい。

雇用の流動化、労働移動が進んでいく

企業間の雇用の流動性があり、非正規にも能力開発・キャリア形成の機会が与えられるので、欧州では不採算事業の撤退に伴う余剰人員の整理が比較的スムーズに行われる。生産性が高くかつ労働時間が短くて済み、男性の育児・家事参加が一般化して女性活躍は進んでいる。欧州における同一労働同一賃金とは、正規・非正規間のみならず、性別や年齢、国籍を問わず、多様な人材が公平に処遇されることで、様々な属性を持つ人々が能力を十二分に発揮できるための処遇の原理に位置づけられている。

以上のように、同一労働同一賃金への取り組みの真の意義は、それを契機に、雇用システムに欧州型の要素を取り入れ、雇用のあり方そのものを見直していくことだといえるだろう。わが国の正社員のあり方について、安心して転職・再就職できる環境を整えたうえで、欧州のように、職種を自ら選択できるようにしていく。

それは、生活とのバランスや個人のキャリア形成からすれば、滅私奉公的な日本型の正社員の働き方を見直し、欧州型の職種を選べる働き方に近づくことを意味する。異なる就業形態間の相互転換もスムーズになるだろう。つまり、同一労働同一賃金を、処遇のあり方にとどまらず、雇用のあり方全般を見直すきっかけとする。そうすることで、あらゆる属性の人々にとって仕事と生活を両立し、本物の働き方改革が展望できるのであり、そこまで視野に入れた取り組みが求められているのだ。

山田 久 日本総合研究所 チーフエコノミスト

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やまだ ひさし / Hisashi Yamada

日本総合研究所チーフエコノミスト。

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