トランプはまた、キヤリアの親会社であるユナイテッド・テクノロジーズに対しても、「雇用を海外へ移せば、米国防総省と同社の軍事部門との契約に悪影響が出るかもしれない」と伝えたと言われている。共和党主流派の中にはこれを、「政府の不当な市場介入」であると批判する議員もいるが、これはトランプがいかにしてブルーカラー有権者の支持を得ているかというよい例だろう。こうした労働者の多くは労働組合に入っており、これまでは米国の製造業の雇用を取り戻すと約束していた民主党を支持していた。
トランプの経済政策チームも、一枚岩ではない。財務省長官になる予定のムニューチンと、NECを担当するコーンは2人とも前述のとおり、ゴールドマン・サックス出身の投資銀行家であることから、サービス業を重視し、グローバリゼーションを推進することが予想される。一方、NTCを担当するナヴァロと、貿易問題専門の弁護士であるUSTRのライトハイザーは、反自由貿易の色彩が強い。
ハーバード大学で経済学の博士号を取得し、カリフォルニア州立大学アーバイン校の元教授であるナヴァロは中国の経済政策を激しく批判し続けており、「対中国貿易政策の強硬派」と呼ばれてきた。彼は著書『中国は世界に復讐する(The Coming China Wars)』や映画にもなった『デス・バイ・チャイナ』などで、中国が世界の貿易体制にもたらす危険性について警告している。
レーガンを賞賛するライトハイザー
私がUSTRに務めていた1980年代に次席通商の一人だったライトハイザーは、鉄鋼業を中心に日本や中国に脅かされてきた米企業の代理人を務めてきた弁護士である。彼は「米国の輸出を促進すると同時に、不公正な輸入を防ぐ貿易政策を実施することで、米国内の産業を支えているのは共和党にほかならない」とする論文を数多く執筆している。
彼が賞賛しているのは、鉄鋼の米国への輸入量に品目別・国別の割り当てを課し、日本メーカーとの競争からハーレー・ダビッドソンを守り、米国の半導体や自動車メーカー守るために日本からの輸入を制限したことで知られる1980年代のレーガン政権だ。
こうした問題に関して、商務長官に指名されたロスがどう対処するのかは興味深い。彼は日本を含む世界中で(財務危機に陥った企業の株式や債券など)ディストレスト資産に投資することによって、巨万の富を得た銀行家だ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら