26歳でプロ野球｢戦力外｣の男がつかんだ奇跡 海を渡った中後悠平は夢舞台への扉を開いた
「『嘘だろ？』って思うかもしれないですけど、どんな厳しい場面で投げてても、その時にふと思うのは嫁さんと子供のことなんです。千葉ロッテの時に考えていたのは、『ここで打たれたら上に上がれない』とか、『絶対ここで抑えてやろう』とか、同じミスしたらアカンとか、そういうネガティブなことばっかり。でも今は違う。何の為に頑張ってるか、何の為にここまで来てやってるか。
こっちに一人で来て、寂しい気持ちもあるし、家族に会いたい気持ちもある。でも会えない。じゃあ、ここで何をするべきか。野球を頑張ることなんです。野球を頑張ったら上に上がれる。結果も繋がってきたら、給料が増えて家族を養える。
もしメジャーにでも昇格できたとしたら、家族をこっちに呼べる。別にここが母国じゃないし、アカンかったらアカンかったで日本に帰ったらいい。帰っても別に野球以外に仕事いっぱいあるわという考え方ができるようになったんです。それによって楽になって、自分の思うようなボールを放って、そこから抑え続けられているのかなと思います」
男の言葉と表情には自信がみなぎっていた
考え方一つで、かくも人は変われるものなのか。たった10カ月前にクビを告げられ、ただ途方に暮れていた中後。だが目の前にいる男の言葉と表情には自信がみなぎっていた。そしてこの数日後、妻が生後6カ月の子どもを連れてアメリカにやってくることになっていた。実に4カ月ぶりに再会する、感動的なシーンを撮影することになっていたのだ。
ところが、この時は想像すらできない、さらにドラマチックな展開が待ち構えていた。このインタビューをしたわずか2日後のことだった。
好投を続ける中後を、ハイAから2Aをすっ飛ばして3Aにジャンプアップさせることを球団が決断。3Aとはメジャーリーグの一歩手前のランクに招聘することにしたのだ。
ナイトゲームの後に緊急昇格を言い渡された中後は、モーテルに戻って荷物をまとめ、ほとんど睡眠を取れないまま空港へと向かう。だが意気揚々としていた。
