26歳でプロ野球｢戦力外｣の男がつかんだ奇跡 海を渡った中後悠平は夢舞台への扉を開いた
振り返ってみれば、中後がプロで輝きを見せたのはわずかだった。2011年にドラフト2位・契約金8000万円で千葉ロッテに入団。変則フォームのサウスポーで、最速151キロのストレートに加え大きく曲がるスライダーが武器。“和製ランディ・ジョンソン”とメジャーのスーパースターになぞらえて期待された。
プロ1年目となった2012年、開幕一軍を勝ち取ると開幕カードとなった3月31日の東北楽天戦で8回裏にリリーフでプロ初登板。1点勝ち越しながら1死満塁というピンチの場面で、2者連続奪三振と上々のデビューを果たし、試合後にはヒーローインタビューを受けた。
その後も中後は好投を続け、何度もチームの危機を救った。ゴールデンルーキーの活躍に、球団やファンは更なる期待を膨らませた。
だが、それも一瞬だった。デビューから4カ月後、肩の腱板を部分断裂。手術には至らなかったものの、残りのシーズンを、リハビリで棒に振った。肩の故障は2年目も尾を引き、ほとんどが2軍暮らし。プロ3年目も1軍登板わずか5試合で見切られ2軍に降格。そしてプロ最終年となった2015年は1軍での出場がないまま、10月3日に戦力外通告された。
プロ入りから、わずか4年。26歳という若さで、クビを言い渡されたのだった。
「ろくに結果を残すことができなかったんで、自分に対して情けないっていう感情が初めに出てきて…。それに、結婚して一番頑張らなきゃいけない年に1軍に1回も上がれずにクビになってしまって。嫁さんに対して申し訳なくて…」
結婚半年、第1子誕生間近での失職
中後が戦力外になったのは最悪のタイミングだった。結婚してわずか半年。妻は仕事である保育士を辞めて、過酷なプロ野球の世界で生きる夫を全力でサポートしようとしていた。さらに第一子の出産予定日まで残り2カ月という時期で、中後はいきなり職を失ってしまったのだ。
そして最後のチャンスとなったトライアウトでも、先述の通り完全に自滅してジ・エンド。自宅で出迎えた身重の妻は「今日（お腹にいる赤ちゃんが）ボコンボコンすごく動いてたよ」と和ませようとしたが、夫は「父ちゃんヤバいって言ってたんじゃない？」と苦笑いするのが精一杯だった。
戦力外通告の番組の中では、そのあと中後が独立リーグからオファーを受け、平均年収が150万円という厳しい環境ながら、プロ球界復帰を目指すためそのチームでプレーする決断をし、待望の第一子が誕生した模様までを伝えて終わった。
ところが、直後に中後の人生が急展開で動き始めた。そのキッカケはこの番組の放送だった。
番組内で映し出された中後のブルペンでの様子をメジャー関係者が見て「十分に通用するんじゃないか？」と興味を示したのだ。そして年が明けた1月、メジャーリーグ3球団のスカウトが中後の投球を実際に見たいと言う連絡をしてきたのだった。
