26歳でプロ野球「戦力外」の男がつかんだ奇跡 海を渡った中後悠平は夢舞台への扉を開いた

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2月2日。フィラデルフィア・フィリーズの環太平洋スカウトが浦和のグラウンドにやってきた。極寒のなかテストピッチを行なう。スカウトがネット裏から投球をチェック。同行者がビデオを撮影しながら、スピードガンで投球を計測する。

まだ、調整段階の時期にも関わらず、中後のストレートは140キロ台を記録した。続いて最大の武器であるスライダーを投げると、スカウトの目は明らかに光った。その評価は、別日に視察したテキサス・レンジャーズ、アリゾナ・ダイヤモンドバックスのスカウトも同様だった。

当初はマイナーキャンプに招待選手としてというオファーだったが、各球団の関心が高まり、最終的にはダイヤモンドバックスから、非公式ながらもメジャーキャンプの招待選手としてのオファーが届いた。同じキャンプでもこの両者では天地ほど待遇に開きがある。

突然開かれた夢舞台への道

招待選手から実際に契約する場合、マイナーだと1年目の収入は、月額9万円から24万円ほど。ところが、もしもメジャーキャンプの招待選手からメジャーリーガーとなれば、年俸は最低保障額でもおよそ5800万円ほどになるのだ。プロ野球時代でも最高年俸は1650万円、ましてクビを宣告されたばかりの男に、夢舞台への道が突然開かれた。

通常はありえない破格のビッグチャンスに、中後は海を渡る決心をした。ビザ取得に時間がかかり、メジャーキャンプには間に合わなかったが、4月に渡米。延長キャンプに参加後、ルーキーリーグからスタートし、7月には1Aの中でも実力が上位の「ハイA」というランクのチームに着実に昇格をしていた。

その姿を追うため、中後に再び会いに行った。7月31日の試合後。チームバスで移動した先で落ち合った。深夜営業している数少ないチェーンレストラン「デニーズ」で再会の握手を交わす。その表情は、数カ月前とは比べ物にならないほど逞しさを増していた。彼はジャンクフードを頬張りながら、自らの内面の変化をとうとうと語り始めた。

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