監督が儲からない、日本の映画業界への不安 製作委員会よりクラウドファンディング

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その意味で、「この世界の片隅に」のスマッシュヒットが、日本映画の未来にとって一筋の光明となるのかもしれない。

太平洋戦争下の広島を舞台にしたアニメーションが、11月の公開以降じわじわと上映館数を伸ばして、大ヒットの基準とされる興収10億円超が見えてきた。

アニメーション映画監督・片渕須直(かたぶち・すなお)/日本大学芸術学部映画学科卒。「魔女の宅急便」(1989)で演出補をつとめる。TVシリーズ「名犬ラッシー」(96)で監督デビュー。映画「アリーテ姫」(2001)、「マイマイ新子と千年の魔法」(09)などを監督(撮影/編集部・柳堀栄子)

この数十年、ヒットするアニメ映画は数年ごとに作られる「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」「名探偵コナン」などラインアップが固定化している。それにあてはまらない作品が勝負をかけたとしても、集客は難しいのが現状。「この世界~」を監督した片渕須直(56)はその状況を打ち破ろうと、09年にアニメ映画「マイマイ新子と千年の魔法」を大人向けに制作した。だが、

「子ども向けと判断されて、親子で観られるようにと上映時間の最終が午後5時に設定された。会社帰りに行けないと知人に指摘されました」(片渕)

上映時間の変更を頼んでも、「結果が見えている映画にはこたえられない」。レイトショー上映してくれる映画館を探してイベントを仕掛け、ツイッターで情報を発信すると、公開3週目には映画館の9割の席が埋まり、1年間断続的に上映し続けることができた。それでも、興行収入は5千万円どまり。

「この世界の片隅に」に取り掛かってからも、「マイマイ新子」の数字が重くのしかかった。

「出資先を探すと『内容はすごくおもしろいし、絵コンテもよくできているが、前作の初動数字が良くない』と次々に断られた」(片渕)

たった8日で2千万円

説得に必要なのは内容よりも数字。もう、どうにもならないのか。制作を担当するMAPPAの丸山正雄(75)は、ジェンコの真木太郎(61)に相談する。真木は前作の出来に感動してプロデューサーを引き受けたが、やはり資金調達に苦しんだ。「クラウドファンディング」に行き着くも、資金調達の事例を調べると、集められるのは多くて数千万円単位。アニメ映画の制作には一桁足りない。制作現場にはスタッフが集まってきて、今すぐお金が必要なのに。

「背に腹は代えられないということで、結局、クラウドファンディングでパイロットフィルム用の映像制作費を集め、それをもとに営業用の映像資料をつくることにしたんです」(真木)

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