監督が儲からない、日本の映画業界への不安 製作委員会よりクラウドファンディング
シネコンの興隆と引き換えに、独自に作品を選んで上映するいわゆる単館系の映画館も淘汰された。「誰も知らない」の配給を手掛けたシネカノンも10年に倒産。社長だった李鳳宇(リボンウ)(56)は「多様な映画文化を支えていた層の高齢化」を指摘したうえで、こう分析した。
「作り手と受け手の感性のずれが進んで経営が成り立たなくなった。また、技術的に映画が簡単に撮れるようになって日本映画の本数自体が急増し、逆にいい映画を見つけづらくなったことも大手偏重の傾向を進めた」
こうして日本の映画は数百万~数千万円で作るインディーズと、東宝をはじめとする大手配給会社が制作のみならず宣伝にも資金を大量に投下して200~300館規模で公開する大作に二極化した。
日本映画製作者連盟(映連)のデータでは、15年の日本映画で10億円以上の興収があったのは39本。邦画全体の6.7%に過ぎないが、興収の合計は898億円と全体の74.6%にも達する。上位と下位の格差が開いているのだ。
「誰も知らない」のように、1億数千万円で作り十数館規模の公開からスタートする中規模の映画がなくなったことで、映画を作る新人が育っていくステップも共に失われた。日本初のシネコン「イオンシネマ」を運営するイオンエンターテイメント取締役の水野千秋(62)も、
「このままでは映画産業は再び衰退するかもしれないと危惧している。市場を大きくするために我々も試行錯誤し新たな取り組みをしている」
と漏らす。是枝も続ける。
「映画文化が豊かになるためには映画作りの多様性が確保されていないといけない。東宝は企業としてはすばらしいが、好調ないまこそ、公開規模のバリエーションや新人育成のビジョンをみせて、映画文化にどう寄与するかを示してほしい」
ヒットアニメの固定化
大金が動く大作の制作では失敗が許されず、プロデューサーや製作委員会などの意見が作品に反映されやすくなる。「観客の見たいものから逆算して作る」というプロデューサー主義の浸透が邦画の隆盛を導いたのは事実だが、
「監督がテーマと深く、強く向き合った作品が、世界で通用すると信じている。僕はそういう作品が好きだし、監督の作家性を邪魔ものにしないでほしい」
と是枝。前出のフジテレビ映画事業局次長、臼井裕詞も言う。
「プロデューサーが作りたいものを作らせているだけでは行き詰まる。前提は、面白いクリエイターがいてこそ。いまは再び、強い作家性のある監督が求められている時代です。私たちも、新しい作り方を再び模索しているところです」