「教育困難校」生徒が奨学金地獄に陥る仕組み スマホ中毒で非現実的な夢しか考えられない
だが、「教育困難校」では、招いた方に失礼があってはいけないという理由で、上述のような行事も行えない。新たな方向に目を向けさせる刺激を学校でも与えられないのだ。そこで、限られた興味・関心がそのまま自分の進む方向になってしまう。ほとんどパソコンに触ったことがないのにゲームクリエーター、好きなアニメキャラクターをまねた絵しか描いたことがないのにアニメ作家、ひとつのアニメキャラクターの声に似た声しか出せないのに声優、自分を飾ることにしか興味がないのにメークアップアーティストやスタイリスト、自分の好きな芸能人に近づきたいという目的で、学校行事の運営も行ったことがないのにイベント裏方志望など、およそ現実味のない方向を選ぶ生徒が非常に多くなる。親も、「子どもの好きなようにさせたい」という金科玉条を口にして、決して彼らの現実離れした夢を止めることはない。
夢だけ見させる専門学校
これらの分野は専門学校で学べるということになっているため、教育困難校では専門学校進学者が多い。また、専門学校も、生徒の興味や関心をしっかりとリサーチして、彼らの興味を引きそうな学科を次々と新設している。かくして経済的に厳しい家庭環境にある「教育困難校」の生徒たちは、最近は「ブラック」と言われ社会問題化している奨学金を借りて、これらの専門学校に進学する。
好きなことをやり、夢を追えることは彼らにとって一時の幸せにはなるだろう。しかし、問題はその先である。彼らの選んだ分野は、天賦の才能と運を大いに必要とする分野ばかりである。ゲームやアニメなどの専門的な勉強をしているうちに、自分には才能がないと気づき、勉強についていけず専門学校をやめてしまう者も少なくない。最後まで頑張って何とかその分野の仕事に就けても、そこで待っているのは低賃金の労働だ。「日本アニメーター・演出協会」が2015年4月に発表した「実態調査報告書2015」によれば、若手アニメーターが担当することが多い「動画」職種の平均年収は111万3000円であるという。女子のあこがれの職業であるメークアップアーティストも、卒業後アシスタントとして働く場合の月収は10万程度。しかも、その後に化粧品会社や結婚式場に就職したり、自営で独立できる人は、ごく少数である。
このような状況では、当然、奨学金の返済も滞り、自身の生活も成り立たない。結局、「教育困難校」の生徒の進学は、彼らの経済的自立にも、そして貧困の連鎖からの脱出にも功を奏していないと、現状では言わざるをえない。もちろん、奨学金も有効に運用されていないことになる。このつまずきのもとは何か。それは、「教育困難校」の生徒たちのごくごく限られた興味・関心、あまりに狭い世界にあると思う。彼らの視野を広げないかぎり、彼らの自立はありえないのではないか。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら