WELQ問題「医師監修」だから安全とは限らない 正しい医療情報を得るために必要なことは?

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3.情報の信用の重み付けを意識する

医師は専門の情報を得るときに、その情報がどの雑誌に報告されているのかを重視します。一流誌に掲載されていれば、それだけ厳しく専門家の査読審査を受けているからです。逆に、三流誌にのっていると何らかの問題があるのではないかと疑います。

それと同じように、新聞や雑誌の医療情報も、それぞれの発行会社や発信者の格をみることが必要です。会社の歴史を調べてみることも参考になります。同じような過ちをおかしてしまう会社が案外多いからです。最近の事件で言えば三菱自動車や東芝がその例です。全ての情報は参考までにとりいれると考え、100%は信用しないことです。

4.良い情報源を日頃から確保する

日頃から、情報源を吟味しておくことも必要です。例えば、SNSなどでも、根拠のない噂話をリツイートする人を、わたしはツイッターのフォローするリストから外しています。ある専門の分野の情報をツイートしてくれる人は、私にとってよいキュレーターになります。

国内の新聞も全国紙よりむしろ地方紙が市民の立場に立って報道しているように思います。また、日本の雑誌や新聞だけではなく、海外の雑誌や新聞もフォローしておくと世界的な感覚で情報が確保できます。


5.今、行動(購買,適応)すべきかどうかを吟味する

新しい療法や治療法などの情報は、まずは疑いながら、少し時間をおいてから行動に移しましょう。時間が経てば、色々な問題が出てくることがあります。急ぐものでなければ、すぐに飛びつくのではなく、目安として半年ぐらい待つことが安全につながります。

6.信用できる人に相談する

情報を得て、実際に行動する前に、もう一度信頼できる人に相談してみましょう。健康情報であれば、かかりつけ医や医師になった友人などに聞いてみることが奨められます。普段からこのような人を確保することを意識しましょう。自分と価値観の似かよった医師であれば、よいアドバイスが得られるかもしれません。

7.自分の感覚・体験を大事にする

いざ行動すれば、その後の自分の感覚や体験を大切にして下さい。決して、事前の情報だけを信じ込まないことです。

これらを全部満たすことはできなくても、少なくとも、1,6,7の項目を実行しておくことにより危険を低減できます。

WELQ問題の発した警告

WELQ事件が、健康・医療情報を受け取る側、すなわち市民や患者に対して発したこととは、信頼できる情報を伝えることを目的とするのではなく、情報提供の場を利用して読者によるクリック数を集め、それを商売の手段とする企業があるということです。その上では、信頼性を犠牲にしても、利益を出すために安価に記事が作成され、注目されやすく話題になりやすい内容で読者を集めることが優先されます。

次に、検索エンジンの上位にある記事が必ずしも信頼性のある情報ではなく、検索エンジン最適化という操作によりなされたものが出回っているということです。したがって、大事な情報をとりいれる際に、最上位にあるものだからといって本当に信頼に足るものなのか、検証することが大切です。

今後、医師による監修などが加えられ、それをウリにした健康・医療メディアが出てくることもあるでしょう。しかし、医師による監修が信頼性を保証するものではないこと、医師にとっては、監修すること自体が経済的な目的となってしまう可能性に留意しなければいけません。

インターネット上の情報は玉石混淆です。キュレーションメディアは、こんな情報もあるのか、と見つけるために利用するのは便利かもしれません。しかし、それを自分に適用するときは、常に反対の意見にも留意し、多くの情報の中から自分で情報の価値判断をすること、できれば専門家のアドバイスも得ることが奨められます。それができなければ、安易にこうしたメディアには近づかないことが大切です。先ずは、信頼ある情報源のみから情報を得ることをお奨めします。

筆者の加藤眞三先生による、「患者学」についての公開講座が12月22日(木)に慶應義塾大学信濃町キャンパスで開かれます。
加藤 眞三 慶應義塾大学看護医療学部教授

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かとう しんぞう / Shinzo Kato

1956年生まれ。1980年に慶應義塾大学医学部卒業。1985年に同大学大学院医学研究科博士課程単位取得退学(医学博士)。米国マウントサイナイ医学部研究員、 東京都立広尾病院の内科医長、内視鏡科科長、慶應義塾大学医学部・内科学専任講師(消化器内科)などを経て、 2005年より現職。著書に『患者の生き方』『患者の力』(ともに春秋社)などがある。毎月、公開講座「患者学」を開催している。
 

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