がんの人に「調子はどう」と聞いてはいけない 気にかけて発したつもりでも…

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がんになった友達を避けようとする人もいるが、それは不適切な言動よりもずっとがん患者を傷つけることがある(写真:yacobchuk / PIXTA)

調子はどう(How are you)?――これはがん患者や経験者がいちばんよく聞かれる質問だ。この言葉は、相手を気にかけていることをさりげなく表現しているように見えて、相手にはそうは伝わらないことがある。私自身そんな経験がある。

がんの治療を終えた1年後、ある祝祭日に親戚が集まったときのことだ。遠縁の女性が、まさに「調子はどう?」と聞いてきた。そこで私が「元気よ」と答えると、彼女はさらに畳み掛けてきた。「本当のところはどうなの?」

「本当に元気よ」と、私は答えた。でも、もし「本当は」元気でなかったら、どう答えただろう。楽しい集まりとなるはずの会で、自分の体調についてとうとうと語りたいと思っただろうか。がんであることを思い出させられて、キレるだろうか。その親戚は間違いなく善意で言葉をかけてくれたのだが、私は「立ち入った質問をされた」と感じた。

家族や友達ががんになると、私たちはそのことに触れないようにするか、善意だが不適切なコメントを口走ってしまいがちだ。どうしていいかわからないから、がんになった友達を避けようとする人もいる。だがそれは、不適切な言動よりもずっとがん患者を傷つけることがある。

やたらと楽観的な言葉は逆効果

サンフランシスコ州立大学のスタン・ゴールドバーグ名誉教授が、悪性の前立腺癌と診断されたのは57歳のときのこと。以来、コミュニケーションの専門家であるゴールドバーグは、自らが治療を受けるかたわら、ほかのがん患者のカウンセリングも行ってきた。その経験をまとめたのが、著書『がん患者を愛し、サポートし、ケアすること(Loving, Supporting, and Caring for the Cancer Patient)』だ。

がんになると、チアリーダー役になってくれる人はよくいると、ゴールドバーグはあるインタビューで語っている。「考えすぎないで」とか「きっと大丈夫」とか「一緒に戦おう」とか「ぴったりの治療法が見つかるよ」と言ってくれる人たちだ。だが、「楽観論は即効性はあるかもしれないが、そのがんが人間の努力をも打ち砕くくらい悪性の場合、患者は(楽観的になれないことについて)罪悪感を持つ可能性がある」。

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