警察の「職務質問」は一体どこまで正当なのか 納得のいかない職質にはこう対処せよ
職質は地域警察官にすれば、犯罪検挙の有力な武器であるが、難しい技能とされる。あくまでも市民の協力を前提とする”任意の手段”であり、相手方が何らかの理由で拒否するときには、説得して応じてもらうほかない。
したがって職質の技術の基本は会話である。が、地域警察官と市民との会話の機会が少なくなっている今日では、職質技術は育たない。本来この職質は、刑事警察官の聞き込みや取り調べの技能の基本にもつながるから、刑事警察官にとっても基本的な技術なのである。
警察では、地域警察官の職務執行力を強化するため、職質能力向上を目的とした研修・訓練を実施したり、卓越した職質の技能を有する職務質問技能指導官による実践的な指導等を通じて、全体の技能の向上に努めているとしている。だが十分な成果が上がっていないのが現状だろう。
職質をされる対象とはこんな人
職質の法的な根拠は、警職法2条1項である。警職法が施行されたのは1948年だ。以来、68年間を経過して、社会環境は一変した。国民の生活様式も意識も大きく変わっている。
警職法2条1項による職質の対象は、警察官が”異常な挙動””その他周囲の事情”から合理的に判断し、以下の1か2のいずれかに該当する者に限られる。(1)何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足る相当な理由のある者(犯罪容疑者)、(2)既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者(犯罪の目撃者等の参考人)。
また、職質の手段は「停止」させ、「質問」することである。これに付随して同行要求など(2項、4項)もできるが、職質は強制手段ではないので、身柄の拘束や強制連行、答弁強要は許されない。
警察官は、走行中の車の運転者が職質対象者かを外部から観察し判断することは、不可能に近いだろう。犯罪者は警察官に職質されるような異常な運転はしない。警職法2条の要件を欠く職質は、違法で許されないはず。しかし、現場では実質的な”ノルマ制度”を背景に警職法2条の要件を具備しない職質が行われ、幹部もそれを追認、矛先は市民に向けられる。それでも警職法を時代にマッチした法律に改正しようとする動きはない。
警察官の初任科教育に使われる警察教科書(警察法)では、職質と密接に関係する自動車検問について、任意活動であり、警察の責務(警察法2条)を達成するために必要な範囲で行うことが可能としている。サミットなど国際会議の開催時、大勢の警察官が国道で無差別に車を止めて検問をしているケースをよく見るが、あれは職質ではない。警察は警察法2条が根拠と主張しているが、本来、警察の組織を定めている警察法が警察官の仕事の法的な根拠になるとするなら、警察は治安維持のためなら何でもできることになる。こうした考え方は警察内部にコンプライアンス(法令遵守)の欠如を生み出しかねない。
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