そんなみくりの承認欲求を満たしたきっかけは、平匡の家で家事代行サービスを始めたことでした。そもそも、みくりが平匡の契約上の妻に「就職」することになったきっかけは、網戸がきれいになっていたことに気づいて平匡が喜んでくれたこと(気づきにくいことに気づいて感謝とうれしい気持ちを述べてくれたこと)でした。
感謝やねぎらいの言葉は、大いなる「承認」のサインです。とりわけ、身近な人に承認されることは、自分の生きる価値を確認し、認められたい欲求を満たすものです。
私が日々、相談を受ける中で気になるのは、相談者の自己肯定感の低さです。「私なんか」「どうせ」などの口癖とともに、自分のことを必要以上に否定的にとらえる傾向が見られます。自分のことを認められない人は、人のことも認められないので、人間関係を健全に構築していくことが難しくなります。
ただ、日々のちょっとした声かけや会話の中で自分が承認されていると実感することで、自己肯定感の向上に結び付くケースも多いようです。面と向かって相手のことを褒めるのは少し白々しいと思う人も、日々の会話の中で、さりげなく感謝、ねぎらいの言葉を口に出してみましょう。相手との関係は、劇的に改善します。
自分の気持ちが動くことを恐れてはいけない
ただ、平匡の場合は人と一定以上の関係を築くことを敬遠する傾向があるようです。35歳の現在まで女性との交際経験がなく、自身を“プロの独身”と称していることからもそれがわかります。
そんな平匡の特徴は、「好きじゃなければ割り切れる」「人を好きにならない、かかわらないことが平穏」というセリフからもわかるように、気持ちが動くことをマイナス、平穏とは気持ちが動かないこと、と認識していることです。つまり、人との関係性で、自分の心が乱れることが怖いのです。
現在、若い世代を中心に争うことを極端に恐れる傾向が見て取れます。平匡のように、自分自身の感情と争うことすら抵抗感があり、怖いのです。
就活面談などの現場で大学生と話してみると、「大学時代に1人の友達もできなかった」という人が多く見られます。しかも、それを悩むわけではなく、「気持ちが動かされることがなくて、それが楽だった」と答えることに、違和感を覚えずにはいられません。
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