インフルエンザ予防接種は、無意味ではない 接種しないと「2.5倍」リスクが高まる
1979年シーズンに前橋市の医師会が中心となって、インフルエンザワクチンの予防接種の効果を調査したのがこの前橋レポートである。結果としてワクチンを接種したグループと接種しないグループで大きな差が認められなかった。そのためにインフルエンザワクチンは効果がない、と判断する医療関係者が出てきた次第である。
しかし、現時点ではこの前橋レポートの研究内容に多くの疑問が呈されている。まず当時はインフルエンザに感染したことを科学的に証明する方法が存在しなかった。現在では医療機関で実際にインフルエンザに感染したことを判断する検査キットが普及しているが、当時は医師が臨床症状からインフルエンザ感染の診断を下していた。また、ノロウイルスによる感染症と考えられる症例もインフルエンザに組み込まれた可能性が否定できない。さらに、単なる風邪で学校を休んだ症例もインフルエンザ感染と判断されている可能性も、大いに考慮に入れなければならない。
当時の医学レベルでは、仕方のなかったことと考えることもできる。しかし、この前橋レポートでさえ、医療統計学的な手法でワクチン接種は有効であると証明することも可能である。
1984年に予防接種を受けてインフルエンザに感染したと判断された症例は38.3%、1985年は18.6%、一方、予防接種を受けないで感染した症例は1984年で53.9%、1985年で30.9%。このデータからは予防接種を受けたグループのほうが明らかに感染(現在の確定診断とは誤差がある可能性もあるが)した症例が少ないことが理解できる。この事実をワクチンの効果に疑問を持つ人にはぜひ知ってもらいたいと筆者は考える。
ワクチンの「有効性」という特殊な考え方
何々を食べると高血圧で死亡するリスクが増える、何々を食べると乳がんになるリスクが高まる――などの記事がメディアをにぎわせている。何々がきっかけでこんな病気になる、とのデータは比較的一般の人にわかりやすい数字である。
しかし、インフルエンザワクチンの有効率は60%、と言われたら多くの人(医師もいることは嘆かわしいが)は、100人がワクチン接種を受けると60人がインフルエンザに感染しないと判断するであろう。この考え方は医療統計学としては間違いである。医療統計学ではワクチンを接種した100人と接種しなかった100人のグループを2つ作った場合、接種したほうはインフルエンザに10人感染、接種しなかったほうは25人感染したと仮定しよう。その場合、25人-10人=15人、15人÷25人=60%との数字が導かれ、これを有効率と呼んでいる。感染症にかからない有効率という統計学手法を知らないためにインフルエンザワクチンは効果がない、と考えている人が多く見受けられる。
筆者はこのように患者さんに説明している。
以上が筆者が考えるインフルエンザ予防接種の効果である。
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